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2009年8月30日 - 2009年9月5日

2009年9月 1日 (火)

「花と兵隊」

「花と兵隊」

 無謀なインパール作戦に従軍、敗戦後、動機はそれぞれだが帰国を拒み、そのまま六十余年タイ・ビルマに残った日本人たち。ブラジル移民の息子で日本へ帰ったところ徴兵された人。沖縄出身で、戦後、沖縄の惨禍を知り、親族も大半が死んでしまった人。自動車部隊出身で修理が得意であるとか、衛生兵出身とか、技術によって現地の人の信頼を得ている人が多いのが目立った。中国語が得意なので中国人になりすました人。戦後に進出してきた日本商社の代理人になった人。敗戦直後は日本兵への敵対心もあり、そこに現地の民族的対立も絡まり、ビルマ人の反日感情から逃れてカレン人に匿われたというケースもある。夫人が姉妹で近所に暮らしているのに、決して日本語で会話しない二人。理由は語られないが、逃亡生活の苦労から、現地の人に疑われないようにという暗黙の配慮なのか。

 未帰還兵たちは齢九十を超えようとしている。幸いなことに、登場する彼らはみな良い伴侶に恵まれ、中には大家族に見守られながら息を引き取った人もいる。とっつきにくそうな老人が、亡くなった妻の若き日の写真にじっと見入る姿が印象的だ。彼らなりに充足した人生を送ることができたのか、ふとそんな安心感も覚えるシーンである。

 緑鮮やかな南国の風景の中、彼らのたたずまいはのんびりしているようにも見えるが、戦争の影はいつまでも引きずっている。戦地での人肉食のシンガポールの中国人虐殺の経験を語る老人。「分かるか、分かるか?」と念を押しながら、どうせ分からないだろう、と言いたげな表情も浮かぶ。あるいは、「それは話せない」と表情は穏やかなままボソッとつぶやく人。老人なので耳が遠くなっているだろうし、普段は使わない日本語なので、途切れ途切れの短い断片的な語り。饒舌ではないからこそ、一語一語に込めた感情的な強さと、語りたくないつらさとがにじみ出てくる。

 不運に死んでいった人たちの話も時折混じる。ある老人は、兵隊たちの骨を拾い、慰霊塔を建てた。無念を語る機会を得られないまま倒れた人たちのこと、彼らの心情を私は想像すらできないことに、胸がざわつくようなもどかしさがよぎる。

【データ】
監督:松林要樹
2009年/106分
(2009年8月30日、渋谷、シアター・イメージフォーラムにて)

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2009年8月30日 (日)

ジェラルド・カーティス『政治と秋刀魚』『代議士の誕生』

ジェラルド・カーティス『政治と秋刀魚──日本と暮らして四五年』(日経BP社、2008年)。

 1960年代、語学留学で東京へ来て以来、日本と付き合い続けながら感じたこと、考えたことを振り返る。西荻窪に下宿、もともと魚介類は好きではなかったが、大衆食堂で食べた鯖や秋刀魚が舌に馴染んだという味わい深いエピソードでつづられる出だしがなかなか良い感じだ。社会科学者としての視点から日本社会の価値観の変化という現実に政治が対応できていないことを指摘する一方で、来日したばかりの頃に知った親切で穏やかな日本への愛惜の念も時折ほのかににじむ。地域研究というのはこういうウェットな感性があってはじめて成り立つものだとつくづく感じる。

 “ドブ板”で選挙民のニーズに敏感な党人派と政策立案に長けた官僚派が互いに協力・牽制しあいながら調整のバランスをとってきたことが自民党政治成功の要因だが、こうした調整メカニズムが機能不全に陥っている、日本独自の政党政治の伝統を生かしながらいかに「説得する政治」を構築できるかが課題だと指摘する。自分には不合理で理解できないことであっても、それを安易に文化論に結び付けて逃げてしまうのは良くないという指摘も大切なことだと思う。

 ジェラルド・カーティス『代議士の誕生──日本式選挙運動の研究』(山岡清二訳、サイマル出版会、改版1979年)はもはや日本の政治文化論として古典。自民党新人代議士の選挙運動に密着して、文化人類学的なフィールドワークによって日本の“草の根”政治の分析を試みた博士論文である。本書で分析されている後援会や地方政治家を通した政治家個人への人間関係による集票システムは、『政治と秋刀魚』でも指摘されているように、すでに崩れている。選挙というイベントからは、その社会における人間関係や組織のあり方、それらに通底する価値観が浮かび上がってくる。日本社会の価値観の変化を考える際の参照基準として選挙を位置付けるという観点から読み直してみると、現代なりに面白い論点も浮かび上がってくるのではないか。

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