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2009年4月12日 - 2009年4月18日

2009年4月16日 (木)

岩田規久男編著『昭和恐慌の研究』

岩田規久男編著『昭和恐慌の研究』(東洋経済新報社、2004年)

 現在の平成不況における経済政策を考える先行事例として1920~1930年代の昭和恐慌を検討した共同研究。私は数式やグラフをみると頭が痛くなってくるので、そういう箇所はとばしながら通読(日経文化賞受賞作だから専門家の間で論拠の検証はクリアされているはず)、とりあえず読みながらとったメモを箇条書き。

・金本位制は貨幣と金(きん)の兌換を前提→金の自由な国際移動と国内における貨幣供給量とが連動→物価の自動調節機能を期待
・実際には、金流出国と金流入国とは非対称的で、教科書的にはうまくいかない
・WWⅠで各国は金本位制から離脱。戦後、徐々に復帰していたが、日本は関東大震災によるダメージなどのため復帰のタイミングが遅れていた
・浜口雄幸内閣の井上準之助蔵相は金解禁を断行。その背景には「金本位制心性+清算主義」イデオロギー。つまり、金解禁をすれば(グローバル・スタンダード!)、金本位制の自動調節機能によって不健全な状態にある財界の整理が進み(構造改革!)、一時的には苦しいかもしれないが我慢すれば経済の立て直しができる
・経済政策の割り当て問題。マクロ経済の安定と財界整理の問題とでは処方箋が異なる→前者を優先しつつ両方取り組む必要(石橋湛山、高橋亀吉、小汀利得、山崎靖純ら新平価解禁四人組はこの点を理解していた)→しかし、「金本位制心性+清算主義」の人々(マスメディア主流派や井上蔵相)はこの点を混同していた
・人々の経済行動はどんな予想をするかに応じて異なる結果をもたらす→予想の根拠となるゲームのルール=政策レジームを転換したことを人々に信用させる必要がある(デフレ下ではインフレ期待の形成が必要→リフレ政策)
・高橋是清蔵相が金輸出再禁止、国内の経済政策を自律的に展開可能→高橋財政は「二段階レジーム転換」という仮説を提示(金本位制離脱→国債の日銀引き受け)
・経済メディアの問題。経済の長期停滞の打開策を求める世論の期待があった。大新聞などの経済メディアの頭を縛っていた「金本位制心性+清算主義」イデオロギーが世論をあおり、井上蔵相もこれに便乗した。世間知と専門知とが乖離したとき、通俗的に分かりやすい世間知が政府の政策決定に強い影響を及ぼしてしまう問題(小泉自民党の郵政選挙を思い浮かべる)

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2009年4月15日 (水)

塩沢槙『東京ノスタルジック喫茶店』、常盤新平『東京の小さな喫茶店・再訪』

 学生の頃から折に触れて神保町など古本あさりにブラブラすることがあった。あの界隈には喫茶店が多い。古びて風格のある喫茶店の前を通りかかったし、作家などのエッセイでそうした店が出てきて気になってもいたのだが、若僧には何となく敷居が高かった。物怖じしなくなったのはようやく三十歳を過ぎてからだろうか。

 しかし、すでに喫茶店文化も様変わりしつつあった。侯孝賢監督「珈琲時光」という映画が好きなのだが、水道橋のエリカというお店がロケに使われていた。ああ、あの店かと思って行ってみたところ、閉店の貼り紙に涙をのむ。ほんの数ヶ月前に通りかかったときはまだやっていたのに…。二、三年ほど前か、知人から中野のクラシックというお店の話を聞き、行ってみたこともあった。不思議なお店だった。ほこりっぽくて薄暗い。木床のフロアが不規則に組上げられた迷宮構造。カフカの小説世界、たとえば『審判』を映像化するとしたらあの裁判所は私ならこんな感じにするかな、などと勝手にイメージをふくらませたが、とにかく物語の舞台にしたくなるような趣きだった。古時計や海外の置物みたいのがやたらと目立つ。面白い。客層も私と同世代が多く、みなアート系の感じ(私は違うが)。気に入ったので一月ほどしてもう一度行ったら、こちらも閉店の貼り紙。つい最近も、職場近くでそれなりに年月を経た良い感じの喫茶店をみつけ、一月ほどして再訪してみたら、やはり閉店していた。そんなことが続いている。

 東京の喫茶店がらみで二冊を手に取った。塩沢槙『東京ノスタルジック喫茶店』(河出書房新社、2009年)。著者は私と同年代。東京町歩き取材をしているうちに喫茶店の魅力にひかれたらしい。写真がふんだんに盛り込まれ、現在と過去を対比できるのが面白い。最初は写真主体の本に仕立てるつもりだったが、店の主人の話を聞いているうちに、店にまつわる人間模様の方が中心になったという。さもありなん。

 常盤新平『東京の小さな喫茶店・再訪』(リブロアルテ、2008年)。著者はもう七十代も後半。普段から通い慣れている喫茶店をめぐって思い出話がつづられる。やはりお店の人間模様が話題の中心となる。喫茶店エッセイではあっても、時にしんみりとした短編小説のような味わいも感じられる。昔と今の、喫茶店だけでなく人間気質の違いが窺えてくるのも面白い。

 二冊とも造本はきれい。何よりも、書き手の眼差しがあたたかいから読んでいてホッとします。

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2009年4月12日 (日)

福間良明『「戦争体験」の戦後史──世代・教養・イデオロギー』

福間良明『「戦争体験」の戦後史──世代・教養・イデオロギー』(中公新書、2009年)

 「平和への思いを新たにするために、戦争体験を語り継がなければならない」──確かに正論である。異議はない。しかし、それぞれに多様であり、また苛酷ですらあった“戦争体験”の“語りがたさ”を前にして、語り継ぎの中にはひょっとして断絶があったのではないか。本書は、“教養”の世代間ギャップという観点によって“戦争体験”の語り継ぎの変容を検討した知識社会学的な論考である。

 体験した者でなければ分からない“戦争体験”を語る戦中派の態度に(もちろん意図的ではないにしても)有無を言わせぬ威圧を戦後生まれの年少者は受け止めた。それはあたかも、彼ら戦中派自身が、大正教養主義にひたった戦前派世代から教養の欠如を蔑まれ(戦中派世代には言論統制の中で幅広い教養に接する機会がなかった)、従属を迫られたときの語り口によく似ていると本書は指摘する。

 例えば、立命館大学のキャンパスにあったわだつみ像を全共闘が破壊した事件が取り上げられる。彼らにとってわだつみ像は「反戦」のシンボルではなく、「戦後民主主義」を支えた知識人の傲慢さと映っていた(同様に、東大で丸山眞男がつるし上げられた事件にも言及される)。“戦争体験”の偶像化により、その位置付けられた脈絡がすり替わってしまっていた。そして現在においては、戦争体験の語り→「英霊」の顕彰につなげる議論と、日本の戦争責任→加害責任を問う議論という二項対立の状況を呈している。それぞれ自分たちの好みに合うように“戦争体験”を政治的に消費するばかりで、相互のコミュニケーションが断絶してしまっている。

 ここしばらく、右寄りの議論が随分と幅を利かせているように見受けられる。進歩主義的な観念論が相対化された点は歓迎できるものの、そのかわり逆方向に極端化した感情論があまりにも強すぎて私には違和感がぬぐえない。これもまた、かつて学界・言論界でヘゲモニーを握っていた“左翼”に対する反発の不健全な表面化と言うことができるだろう。地に足のついた議論を進めるためにはこうした呪縛から解き放たれねばならないわけだが、本書にはそのための示唆があるように思う。

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デイヴィッド・リーフ『死の海を泳いで──スーザン・ソンタグ最期の日々』

デイヴィッド・リーフ(上岡伸雄訳)『死の海を泳いで──スーザン・ソンタグ最期の日々』(岩波書店、2009年)

 MDS(脊髄異形成症候群)、つまり血液のガンの宣告を受けたスーザン・ソンタグ。ジャーナリストでもある息子が彼女の死までの様子をつづる。もちろん、あのソンタグのことだ、よくあるお涙ちょうだい的な闘病記とは全く異質である。人によって読み方は色々とあろうが、生き続けることへの執着が凄絶だ。

 事実を理解して対処する、そうした“理性”的な能力への自信があるからこそ、ソンタグはこれまでの人生を乗り切ってこられた。その意味で、知識=希望と言える。しかし、今回は事情が違う。ありのままの現実=死なのである。彼女はそれでも生き続けようと情報を集め、最先端の医師を探し、そしてもがく。ニュー・エイジ思想や仏教に傾倒する友人たちが“悟り”を説くが、そんなものは一切拒絶する。“理性”という次元を超えてしまった徹底した“理性”主義。逃れようのない現実にぶつかったとき、それを直視しようとする“理性”は時に過酷であり、残酷である。

 彼女の生き続けることへの執着は、マイナスの意味を帯びたいわゆる“執着”の醜さというのとはちょっと違って、そうせざるを得ない彼女自身の性(さが)なのかもしれない。スピリチュアルな慰めなんてものが所詮は現実逃避の自己正当化に過ぎないことを考え合わせると、彼女の生への執着は、変な言い方だがむしろ潔くすら感じさせる。そのもがきのよって来たるところをおそらく彼女自身はっきり理解していたであろう、そしてその苦しみを引き受けていたという点で。もちろん、どちらが良い悪いという話ではない。死をめぐる問題について、今の私には断案がつかない。

 それにしても、訳文がひどいねえ(苦笑)

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