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2009年12月23日 (水)

竹信三恵子『ルポ雇用劣化不況』、堤未果・湯浅誠『正社員が没落する──「貧困スパイラル」を止めろ!』、湯浅誠『反貧困─―「すべり台社会」からの脱出』、森岡孝二『貧困化するホワイトカラー』、他

 竹信三恵子『ルポ雇用劣化不況』(岩波新書、2009年)は、雇用環境について現場の取材を重ねてセーフティネットのあり方を模索する。代替可能な労働力としての非正規雇用は、入れ替えが激しくて経験が乏しいのでマニュアル以外のことはできず、熱心に働いても評価の対象にならない。作業上のミスも増え、働く現場の停滞を招いている。労災隠しの問題。残業代の出ない「名ばかり管理職」の問題。幹部候補正社員と周辺的正社員を分け、後者を使い捨てする「名ばかり正社員」の問題。ここを辞めたら他に働き口はないという不安から、労働法規に反する無理な要求でも受け入れざるを得ない弱い立場。「不況を乗り切るための雇用劣化」が「雇用劣化による不況」へと負のスパイラルになってしまっているのではないかと指摘する。

 堤未果・湯浅誠『正社員が没落する──「貧困スパイラル」を止めろ!』(角川oneテーマ21、2009年)も雇用環境をめぐって討論。市場原理の極端な導入によって医師、教師、中間管理職といったステータスのある職種の人々までもワーキングプアに落ちこみ、プライドがズダズダになっている、食えない若者は軍隊が囲い込む、こうしたアメリカの現実を堤未果が報告する。非正規雇用の拡大は、単に彼らを切り捨てやすくなっているだけでなく、彼らと常に比較される正規雇用の労働環境悪化も招いている、従って、中間層も貧困層に転落する可能性をはらんでいる日本の現実を湯浅誠が指摘する。

 湯浅誠『反貧困─―「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書、2008年)でも用いられていたが、“溜め”というキーワードが大切だろう。人間誰しも失職、病気など何らかのトラブルに直面することがある。立ち直るために相談にのったり、手助けしたり、猶予期間を与えたりという形で家族・知り合い・会社などの人間関係が“溜め”として機能していた。しかし、この“溜め”が細り、すべてが“自己責任”とされることで、たった一度のトラブルでも“すべり台”のように転落しかねない問題点を指摘していた。“自己責任”論者は、自分自身はこの無形の“溜め”で助けられてきたのに、“溜め”のない人に対して自助努力が足りないと批判するという矛盾がある。湯浅さんのNPO「もやい」はこの“溜め”の役割を果そうとしている。

 憲法で保障されるべき「最低限の生活」として生活保護のラインがある一方で、ホームレスに転落して生きていく上で本当にギリギリのラインがある。この二つのラインの中間に「貧困ビジネス」が入り込んできたことも指摘される。ホームレスにならないだけマシだろ、というロジックを取るが、あくまでもビジネスだから基準値はどんどん切り下げられる。他にすがるもののない人はこの泥沼から脱け出せない。立場が弱いからこそますます喰いものにされてしまう。こうした問題については門倉貴史『貧困ビジネス』(幻冬舎新書、2009年)、須田慎一郎『下流喰い』(ちくま新書、2006年)などが具体例を紹介している。

 森岡孝二『貧困化するホワイトカラー』(ちくま新書、2009年)は、ホワイトカラー雇用のあり方について日本とアメリカそれぞれの事情を歴史的に概説、その上で現在の雇用環境流動化の問題点を考える。「成果主義」は、目標達成度に応じた評価によって雇用者を競わせることで、人件費総額を抑制しながら「生産性」向上を図る→相互協力の阻害、賃金格差の拡大(仕事は増えても給与は下る)、精神的ストレスの増大などをひきおこす。雇用差別、派遣労働、ホワイトカラー・エグゼンプションなどの問題。経済界の要求を受けて政治介入を縮小・市場に委ねるという形で雇用・労働分野の規制緩和→日本の労働諸法も前提としている、ILOの「フィラデルフィア宣言」(1944年)で示された「労働は商品ではない」という根本原則が崩されていると指摘する。

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