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2009年12月 7日 (月)

西水美恵子『国をつくるという仕事』、東大作『平和構築──アフガン、東ティモールの現場から』

 西水美恵子『国をつくるという仕事』(英治出版、2009年)の著者は元世界銀行のエコノミストで主に南アジアを担当、副総裁も経験した。貧困の現場を自ら歩いてまわり、可能な場合には農村にホームステイして一緒に働き、あるいは政治指導者と困難な政治交渉を進めたり、そのようにして出会った人々のこと、そして出会いを通して考えたことをつづっている。国際法上、世界銀行の株主は加盟国の国民とされているという。この大前提から発展途上国が必要とする事業に融資するのが仕事である。世銀にしてもIMFにしても、欧米発の“グローバル・スタンダード”押し付けという悪評をよく耳にするが、著者は現地で実地に活動する人々から智慧を借りるのだという姿勢を繰り返し強調している。いくらインフラが物理的に整備されても、汚職が蔓延していたら有効に機能しない。どんなに働いても特権階層に搾り取られてしまうだけなら、働くインセンティヴなど消え失せてしまう。結局、貧困解消の問題はガバナンスの問題に行き着く。そして、ガバナンスはリーダーシップによって左右される。例えば、パキスタンのムシャラフ前大統領はクーデターをおこした軍人として海外での評判は芳しくなかったが、民主主義とは名ばかりで政党政治を私物化するブット、シャリフ両家の政争に堕したバッド・ガバナンスを目の当たりにしていた著者は、(最初は警戒していたものの)ムシャラフの改革志向の生真面目さにはむしろ好感を抱いていた。とりわけ、ブータンの雷龍王四世の謙虚さにはいたく敬服している様子である。

 ついでながら、以前、辺境のガンディーことアブドゥル・ガファル・カーンを取り上げたが(→こちら)、彼の名前を初めて知ったのも二、三年ほど前に日本経済新聞に掲載された西水さんのエッセイだった。アフガニスタン滞在中に彼のことを聞いたらしい。

 内戦で崩壊した政府を再建するにあたり、その根拠として国際管理下で選挙が実施される。しかし、民族対立、腐敗構造、貧困など阻害要因をそのままにして選挙だけ実施してもガバナンスがうまくいかないことはよく指摘されている(例えば、Paul Collier, Wars, Guns, and Votes: Democracy in Dangerous Places, HarperCollins, 2009を以前に取り上げた→こちら)。

 東大作『平和構築──アフガン、東ティモールの現場から』(岩波新書、2009年)は、新政府確立において前提となる“正統性=レジティマシー”(Legitimacy)をいかに形成するのかという問題意識を示す。新たにルールや制度をつくる場合、それに人々が従う動機として、①軍事・警察力による強制、②利害計算と共に③レジティマシーを挙げている。「レジティマシーとは、人々にルールや、そのルールを作り出す組織に従うことを動機づける内的な力である。レジティマシーがあると感じるとき、人々は強制ではなく、自主的にそうしたルールに従う」という。例えば、選挙に敗れても野党としての立場を受け入れるのは選挙についてのレジティマシーがその社会に行き渡っているからである。平和構築のプロセスにおいては、①国連など公正な第三者の関与、②反政府勢力を含め広範な勢力を政治過程に参加させる、③現地の人々の主体的な参加、④経済的・社会的状況の改善(平和の配当)によって生活の安定化、⑤軍事力をどのように使うのかという問題、などが見出せる。これらの要因を踏まえて、当事者全体がルールを受け入れるプロセスが繰り返されて、ようやくレジティマシーが確立される。こうした問題意識を踏まえたケース・スタディとしてアフガニスタン、東ティモールでの現地調査を行なっている。

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