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2009年12月 2日 (水)

今村仁司『近代の労働観』、ロナルド・ドーア『働くということ──グローバル化と労働の新しい意味』

 今村仁司『近代の労働観』(岩波新書、1999年)は、「労働」は本当に人間の本質なのか? 「労働=生きがい」論の背景には、あくまでも「必要」としての「労働」を「本質」とすり替えることで管理のイデオロギーとなっているに過ぎないのではないか?という問いを発する。こうした問題意識をもとに展開された「労働」観の思想的系譜学である。
・古代社会においては、自由人とは自ら目的を設定する者であり、その目的に奉仕して労働する人間は奴隷とされる階層秩序(この辺の議論はハンナ・アレント『人間の条件』にあった)。
・ブルジョワ階層の場合は、マックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』が現世内禁欲倫理が内面化されて自発的な経営合理化の契機が現われたことを指摘。
・下層労働者階層の場合は、国家・教会などの「怠惰は悪徳である」という考え方から強制労働(例えば、救貧院)や禁欲モラルが押し付けられ、法律的・道徳的な言説が繰り返し刷り込まれることによって内面化。例えば、労働時間表→機械的身体としての規律を内面化。
・ところで、強制労働は誰だってイヤだが、現実には働かねばならない→「労働の喜び」論、つまり労働には本来喜びが内在しているにもかかわらず外的条件によって疎外されているのだという考え方が登場した。
・しかし、「労働の喜び」は、内在的ではなく他者の視線という外在的な要因によってもたらされるのではないか? 人間の虚栄心としての承認願望(自分を高く評価せよ、しかし他人は自分よりも劣位でなければならないという確信)→他者からの承認を求める闘争の中で勝つために禁欲を迫られる。①自分よりも下位の者を措定して自身の優位性を確認(排除・差別)、②同等者を出し抜こうと競争、③上位者からの評価を受けることで同等者よりも優位に立とうとする。こうした他者の眼差しを意識した虚栄心が労働の動機となる。

「順位や等級がこの世に存在するのは、人間がそれらを激情的に欲望するからである。複数の他人に対面するとき、人間はまず順位と等級づけを行う。それは承認欲望が作動し、その結果として生まれるものである。一般に、人間は、他人と一緒に生きるかぎり、デモクラシーを拒否し、貴族制や君主制を生み出す理由も承認欲望の中に潜んでいる。よほどの特殊条件がないと、人間は同等性の政治を求めない。革命によって民主主義的政治の格好をとったとしても、人間は同等であることを憎むのであるから、かならず民主制度は内部から腐食させられる。なぜなら、人間は貴族や君主に匹敵する指導者を要求しはじめるし、そうした上位の存在から承認されたいと熱望するからである。こうした一切の現象は、日常風景にみえる労働現場で毎日生じているのである。」(148ページ)

・現代社会では消費活動にもみせびらかしによって自らの社会的ステータスの優位性を確認しようという動機が働いている(ヴェブレン『有閑階級の理論』にこうした議論があった)。
・公共的価値討議への転換(ハーバーマス)→以上の虚栄心をエゴイズムの競争とするのではなく、対等な人格として相互に承認しあう公的人格に切り替えられる。自由な人間として公共的事柄について考えるためには、自由な時間=余暇が必要であるとされる。

 以上の今村の議論では「余暇」を確保することに「人間らしい」生活への希望を見出されるわけだが、これに対して、ロナルド・ドーア(石塚雅彦訳)『働くということ──グローバル化と労働の新しい意味』(中公新書、2005年)は、「我々は20世紀の終わりには週5時間働けばすむようになるだろう」というケインズの予言が見事に外れたエピソードから説き起こしながら、競争が激しくなる現代社会における労働の質をめぐって考える。
・労働市場の柔軟性、市場個人主義。
・経済学の新古典派的伝統による支配→市場志向へ傾斜。株主価値の最大化に努める経営者は従業員福祉に関心が薄い。
・そもそも「公正」とは何か? 不平等の拡大を容認するグローバルな傾向。
・「ダヴォス人間」「コスモクラット」→一国内での不平等の拡大の一方、彼らは国への帰属意識が希薄、国境をまたぐ形で一つの階層を形成。一国で複数の階層が並立し、社会的連帯の弱まり。
・アメリカ発の文化的覇権(博士号取得者の帰国)、金融市場の力(このロジックで勝ち残るには市場個人主義に順応するしかない)→市場個人主義的な世界の同質化。
・アングロ・サクソン型、大陸ヨーロッパ型、日本型など資本主義の多様性を指摘。

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