「千年の祈り」
「千年の祈り」
アメリカの大学図書館で働くイーランのもとへ北京から父が訪れた。離婚した彼女が落ち込んでいるのではないかと気遣う父。しかし、詮索するような父の態度に反発する娘。
先日、原作小説を読んだときにも触れたが(→こちら)、中国語は母国語なのに自分の感情をうまく表現できない、だから英語を使うと違う自分になれるの!というセリフがストーリー上の一つの勘所となる。語られるのは建前であり、心にわだかまる心情は沈黙の中に押し殺すしかない、そうした監視社会の中で、お父さん、あなた自身が本当のことを話してくれなかったじゃない!という反発。
父は娘の知らなかった過去のことを語る。部屋の壁を隔てて一人語りするシーンが印象的だ。気持ちを打ち明けるような話し方に慣れていない彼の戸惑いを表わしているのだろうか。その話には文革の影もほのめかされるが、あまり政治に引き寄せた解釈をしてしまうのも無粋かもしれない。例えば食事のシーンをはじめ、父と娘の関係を、ふとした仕草からこまやかに写し取っていく演出の方に目が引かれる。
一生懸命に英語を勉強したり、亡命イラン人のおばあさんと言葉はほとんど通じないのに心を通わせたり、生真面目で朴訥とした好々爺ぶりを演ずる父親役ヘンリー・オーが実に良い感じだ。何となく小津安二郎「東京物語」の笠智衆を思い浮かべた。娘のイーラン役フェイ・ユーは、清潔感のある憂い顔が美しい。
【データ】
監督:ウェイン・ワン
原作・脚本:イーユン・リー
2007年/アメリカ・日本/83分
(2009年12月5日、恵比寿ガーデンシネマにて)
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