「誰がため」
「誰がため」
コペンハーゲンのレトロで清潔感のある道路の石畳、そこに響き渡ったドイツ軍の軍靴の音。ナチス・ドイツ占領下のデンマークではレジスタンス運動が高まり、この美しい街並もあちこちで生々しい傷痕を見せている。
銃を懐にターゲットへと近寄る二人、フラメンとシトロンが狙うのはナチに魂を売った裏切り者。組織上層部の命令で暗殺に手を染める二人だが、あるターゲットと交わした会話をきっかけに、心の中で疑念がきざす。ひょっとして、俺たちは無実の人間を殺しているのではないか? ゲシュタポのトップを直接狙いたいと上層部に言っても、それは絶対にダメだ、と釘をさされてしまう。誰の言うことなら信用できるのか? 疑心暗鬼で神経を憔悴させる中、ゲシュタポの包囲網は狭まりつつある──。
二人とも戦後は“英雄”とされた実在の人物だという。最新の史料公開を踏まえてこの映画は作られているそうで、その中にはデンマーク現代史のタブーに触れる側面もあるらしい。自分たちのやっていることは正しいことなのかという疑いはシリアスなものである。それ以上に、こいつは裏切り者なのか、それとも二重スパイなのか、罠にはめられているのか、そのように情報のパズルがかみ合いそうでかみ合わない迷宮的な緊張感には、二時間以上の長丁場をグイグイ引っ張っていく迫力があった。
【データ】
原題:Flammen & Citronen
監督・脚本:オーレ・クリスチャン・マセン
出演:トゥーレ・リントハート、マッツ・ミケルセン、クリスチャン・ベルケル
2008年/デンマーク・チェコ・ドイツ/136分
(2009年12月20日、渋谷、シネマライズにて)
| 固定リンク
« 木村汎『現代ロシア国家論』、ミヒャエル・シュテュルマー『プーチンと甦るロシア』、栢俊彦『株式会社ロシア』、酒井明司『ロシアと世界金融危機』、中村逸郎『虚栄の帝国ロシア』、ドミトリー・トレーニン「ロシアの再生」 | トップページ | 斎藤充功『日台の架け橋・百年ダムを造った男』、平野久美子『水の奇跡を呼んだ男──日本初の環境型ダムを台湾につくった鳥居信平』、胎中千鶴『植民地台湾を語るということ──八田與一の「物語」を読み解く』 »
「映画」カテゴリの記事
- 【映画】「新解釈・三国志」(2020.12.16)
- 【映画】「夕霧花園」(2019.12.24)
- 【映画】「ナチス第三の男」(2019.01.31)
- 【映画】「リバーズ・エッジ」(2018.02.20)
- 【映画】「花咲くころ」(2018.02.15)
コメント