「つむじ風食堂の夜」
「つむじ風食堂の夜」
いまにも雪が降りそうな、寒風吹きすさぶ月舟町の夜。十字路脇にたたずむ石造りの洋館、どうやら食堂らしいのだが、そこに吸い込まれるように“私”が入っていくと、起立した男性がちょうど一演説はじめたところだった。お題は、「二重空間移動装置」なる万歩計について。食事をしながら合いの手を入れる常連客──やたらと弁の立つ帽子屋さん、主役がとれず苛立っている舞台女優、口の悪い古本屋のオヤジ、読書好きな果物屋の青年。あちこちから吹いてきた風が、くるりとひとつのつむじ風になる。この店の名前は“つむじ風食堂”。
安食堂の割には洒落た店構え、ノスタルジーをかき立てられる古びたコーヒースタンド、“私”の暮らす天井が高くて素っ気ない一室で灯る石油ストーヴ、路面電車がゆっくりと走る街並(函館でロケをしたらしい)。日本なのかヨーロッパなのかよく分からないレトロな感じの舞台設定が、どこか浮世離れした登場人物の会話をそっと包み込んでいる。ストーリーがどうこうという以前に、この空気感そのものが私は好きだな。
帰りがけ、原作の吉田篤弘『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫、2005年)を買って読んだ。原作小説自体が映像化しやすそうな描写でつづられているにしても、その味わいは映画のレトロな感じの舞台設定によってより活かされている。吉田篤弘って誰だろう?と思っていたら、クラフト・エヴィング商會の片方の人だ。もちろんブックデザインでは有名だが、小説を書いていたとは不覚にも知らなかった。
【データ】
監督:篠原哲雄
原作:吉田篤弘
出演:八嶋智人、生瀬勝久、月舟さらら、下條アトム、田中要次、芹澤興人、スネオヘアー、他
2009年/84分
(2009年11月27日、渋谷・ユーロスペースにて)
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 【映画】「新解釈・三国志」(2020.12.16)
- 【映画】「夕霧花園」(2019.12.24)
- 【映画】「ナチス第三の男」(2019.01.31)
- 【映画】「リバーズ・エッジ」(2018.02.20)
- 【映画】「花咲くころ」(2018.02.15)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント