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2009年11月27日 (金)

菊池嘉晃『北朝鮮帰国事業──「壮大な拉致」か「追放」か』

菊池嘉晃『北朝鮮帰国事業──「壮大な拉致」か「追放」か』(中公新書、2009年)

 北朝鮮問題にはある種の “情緒的”な主張が絡まりやすく難しいテーマであるが、本書は1959~1984年まで続けられた在日朝鮮人の帰国事業について資料に基づいて事実関係を整理する構成となっているので安心して読み進められる。

 プッシュ要因とプル要因から説明される。前者としては日本での差別待遇や貧困、日本政府の「厄介払い願望」など、後者としては北朝鮮側の政治的思惑による「地上の楽園」という宣伝(日本のマスコミによる好意的な報道も後押し)、朝鮮労働党の意を受けた朝鮮総連による積極的な勧誘活動などが挙げられ、プッシュ・プル両方の要因が合わさって帰国願望が高められた。帰国者の大半は38度線より南の出身だが、韓国の政治的混乱が知られる一方で北朝鮮については肯定的な情報しか伝わってこなかったこと、朝鮮総連の熱心さに比べて韓国政府の対応は冷たかったことも背景にある。

 北朝鮮の虚像と実態との乖離は帰国者を絶望に陥れた。北朝鮮国内の生活水準からすれば比較的優遇もされたらしいが、「地上の楽園」という宣伝を真に受けて来た人々からすれば、この落差はどうにもならない。身なりの良い彼らは現地の人々からは嫉妬され、さらには差別の対象になる。不満を漏らせば当局の監視対象となり、場合によってはスパイ容疑もかけられる。日本での差別から逃れて来たにもかかわらず、再び抑圧される立場に落とされてしまった悲運には何とも言葉がない。

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