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2009年11月29日 (日)

「ロシアの夢1917─1937 革命から生活へ──ロシア・アヴァンギャルドのデザイン」展

「ロシアの夢1917─1937 革命から生活へ──ロシア・アヴァンギャルドのデザイン」展

 政治イデオロギーとしての共産主義はどうでもいいが、ロシア革命というイベントとロシア・アヴァンギャルド芸術との関わりには興味がある。既存のものをリセットして、純粋なもの、一切のしがらみを断ち切ったそれ自体で自律的な美を打ち立てよう、そうした夢と情熱が革命という政治的エネルギーと結び付き、1917年を頂点として爆発した。ただし、芸術的情熱は飽くことなく夢を追い求めるのに対して、政治は一たび権力の転回に成功するや安定化に向けて再び秩序形成を図る。夢はその下で従属するよう求められ、窒息し始める。マヤコフスキーは自殺し、メイエルホリドは銃殺され、生き残ったショスタコーヴィチはその華々しい活躍の一方で本心はどこにあったのかが謎としていまだに議論の対象になっている。

 「ロシアの夢」展は革命初期の二十年間、地上に花開いたロシア・アヴァンギャルドについての展覧会である。未来派、構成主義、スプレマティズム、無対象絵画とか言っても抽象的でなかなか分かりづらいが、これらの芸術上のコンセプトが建築、食器・家具・衣服など日用品のデザイン、ブックデザイン、ポスターなど日常の身の回りにおいて具現化されたものに焦点を合わせているのがこの展覧会の面白いところだ。

 未来派的な建築空間の再現イメージは実に格好良い。クドリン「第三インターナショナル記念塔」が風景映像にCG合成で再現されていた。鉄骨が複雑に螺旋型を成す400メートルの鉄塔の中の居住ブロックが一年で一回転するというもの。当時の技術レベルを超えていて、結局、実現不可能だったらしい。こういう無謀な建築は好きだな。ただし、夢先行、理念先行で現実から遊離している点では政治理念としての共産主義と同様だったとも言える。実用性がないという意味では、ロトチェンコがデザインした読書用のイスも座り心地が悪い。見た目はスッキリしていて格好良いのだが。

 日常生活の中へ芸術理念を融合させることで新しい生活のヴィジョンを示そう、言い換えると、一部知識人の占有物として遊離した芸術作品というのではなく民衆の全生活レベルで革命=夢を成し遂げようという意図があった。革命=夢をどのように解釈するかはともかく、この点で芸術家と政治権力との間には同床異夢の同盟関係が成立していた。さらに言うと、芸術家の視点というのは、自身の抱くイメージを表現するためあらゆる素材の動員を図る。それは、動員される側にとっては押し付けがましさともなり得るわけで、そうした意味で実は独裁者と同じ側面がある。生活=芸術を目指した世界は、そこから超越した視点(つまり、作る側としての芸術家や独裁者と同じ視点)に立って外から眺める分にはとても面白いのだが、この中で暮らしたいという気持ちにはなれない。

 ポスターやブックデザインに見られる、幾何学的なフォルムで構成されたイメージや独特なタイポグラフィーは好き。エイゼンシュテイン「戦艦ポチョムキン」のポスターは有名だ。ちなみに、これはもともと無声映画だが、後にショスタコーヴィチの交響曲をつぎはぎして音楽を付けたバージョンのビデオが会場で流されていた。どうでもいいが、私はショスタコが昔から好きで、どのメロディーは交響曲第何番の第何楽章だ、と全部言い当てられる(ああ、オタクだ)。例えば、オデッサの階段で群集が逃げまどうシーンは交響曲第11番「1905年」第二楽章。さらに蛇足だが、このシーンの乳母車が転がって緊張感を出す仕掛けはケヴィン・コスナー主演の「アンタッチャブル」でも援用されていた。

 ロシア・アヴァンギャルド関係で最近観に行った展覧会としては、「無声時代ソビエト映画ポスター展」(東京国立近代美術館フィルムセンター)と「青春のロシア・アヴァンギャルド」展(Bunkamuraザ・ミュージアム)について以前に触れたことがある。

(埼玉県立近代美術館にて、2009年12月6日まで)

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