中島岳志『朝日平吾の鬱屈』
中島岳志『朝日平吾の鬱屈』(筑摩書房、2009年)
1921年、安田財閥の総帥・安田善次郎が刺殺され、手を下した青年・朝日平吾もその場で自ら喉を切って自死した。その後に続くテロ事件の先駆けとされた事件である。本書は、この無名であった一青年の抱えていた鬱屈から、現実社会の不合理によってしわ寄せされた不遇への怨恨、承認願望の挫折といった実存的不安をすくい取り、そこに現代日本社会にも漂う世相的な不安感を重ね合わせる。赤木智弘「希望は、戦争」が執筆の動機となっているらしい。
私の勝手な思い込みだが、政治思想史に関心を寄せる人には、大雑把に言って丸山眞男タイプと橋川文三タイプがあると思っている。丸山が高踏的、悪く言えば上から目線なのに対して、橋川は彼自身が軍国少年だったことをどのように捉え返すかという切迫した思いを動機としていたことから、ある人物の思想を検討するにも内在的な感受性まで迫ろうとした。本書も橋川の『昭和維新試論』(私も思い入れのある本で、以前にこちらで取り上げた。ちくま学芸文庫版の解説は中島岳志)を議論の手掛かりとしていることからうかがえるように、著者は明らかに橋川タイプだ。本書の視点への賛否はともかくとして、こうした切実さを持った対象への迫り方には好感を持っている。
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