本田由紀『「家庭教育」の隘路──子育てに強迫される母親たち』
本田由紀『「家庭教育」の隘路──子育てに強迫される母親たち』(勁草書房、2008年)
・市場メカニズムにより経済的・社会的機能の効率化→中間組織・共同体の弱体化→秩序維持の規範強化という流れの中で、「家庭教育が重要」という言説により、子供・若者を社会化する上での家庭・親の責任を強調する風潮→かえって問題をこじらせてしまうという疑問から、インタビュー調査や統計分析により実証的研究。
・「勉強」によって習得可能なものよりも内面的・人格的特性が「選抜」の重要な要因→内面性涵養の場として「家庭教育」が重視される。しかし、社会階層によって家庭の質的相違→教育に有用な資源を持つ階層の自己正当化、格差再生産の可能性、それが「自己責任」言説で処理されてしまう問題。
・社会階層→子育てのあり方、中3時点の成績、最終学歴、雇用形態、収入へと重層的な連鎖→家庭教育を通した再生産のメカニズム。
・子育てには必ずしも正解はないが、様々に「理想」を語る家庭教育論の氾濫→高い要求水準→母親は暗中模索、自信喪失、ストレス、子育てからの撤退。母親自身の自己実現と子育てとの両立の苦心。
・コミュニケーション能力、ポジティブ志向:ポスト近代型能力→家庭教育で左右される度合いが大きい(本田由紀『多元化する「能力」と日本社会──ハイパーメリトクラシー化のなかで』NTT出版、2005年)。子育てのあり方としても、「きっちり」→学力、「のびのび」→ポスト近代型能力の二つの要素があって、その二つの間で母親に葛藤あり。社会階層との対応度合いは「きっちり」で顕著だが、高階層の母親は「のびのび」にも積極的な傾向。
・教育態度の点で、日本では、海外のように中産階級対労働者階級という明確な断層は見られないが、連続的なグラデーション型の格差。
・家庭教育を媒介とした格差再生産の構図が認められる→だからといって家庭に直接介入できるわけではなく、子供世代に及ぼす影響を、いかに家庭外の制度で軽減するかという問題意識。
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