「九月に降る風」
「九月に降る風」
1996年、台北南郊の新竹。風の強さとビーフンで有名な町だ。高校(台湾では高級中学というのか)に通う九人の少年少女。学年は違うがいつもつるんで授業をさぼる男子七人組。そのリーダー格であるイェンの浮気に気をもむ恋人のユンと、一年生なのに不良グループと遊びまわる同級生のことを心配しているペイシンの少女二人。
羽目をはずして騒ぎまわり、先生に叱られても無邪気でいられた日々。しかし、いくつかの事件をきっかけに、居心地の良かった仲間意識はほころび始める。保身のための裏切り、卑怯だと分かってはいてもどうにもならない弱さ、遠い大人の世界のことだと思っていたそうしたみにくさが自分たちの中にもきざしていることに愕然となり、こみ上げてくる切ない怒りをどこに向ければいいのかも分からず彼らは戸惑うばかり。青春の終わったことを知った。実際にあったという黒社会の絡んだプロ野球の賭博事件についてのニュース報道が時折はさみこまれるが、当時の時代的空気を示すと同時に、少年たちのあこがれへの幻滅と青春の終わりとが象徴的に重ねあわされているのだろう。
静かに落ち着いたカメラアングルで映し出される学校や街並の光景のみずみずしい色合いは感傷的なノスタルジーを呼び起こす。明らかに日本ではないのだが、どこか日本でもあり得るなあと思わせる微妙なパラレルワールド感はこの種の台湾映画を観ているといつも感じてしまうところだ。少年少女の心情の揺れが丁寧にこまやかにすくい取って描き出され、やわなあまっちょろさには流されていないので、ストーリーには共感的に入り込めた。
トム・リン(林書宇)監督はエドワード・ヤン「牯嶺街少年殺人事件」(1991年)から強い影響を受けているとのことで、オマージュとしてその映像も使いたかったそうだが、権利関係の問題が難しく、代わって侯孝賢「恋恋風塵」(1989年)のワンシーンが流れる。台湾の青春映画の系譜としては、「青春神話」(ツァイ・ミンリャン監督、1992年)、「藍色夏恋」(イー・ツーイェン監督、2002年)、「花蓮の夏」(レスト・チェン監督、2006年)なども思い浮かぶ。
【データ】
原題:九降風
監督・脚本:トム・リン
台湾/2008年/107分
(2009年9月12日、シネマート新宿にて)
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