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2009年8月 9日 (日)

「台湾人生」

「台湾人生」

 一人暮らしで今でも農園で働くおばあさん、楊足妹さん。おそらく、客家系か。「男だったら特攻隊に志願した」と言い切る威勢のいい陳清香さん。パイワン族出身で、軍人・立法委員として原住民の地位向上に尽力してきたタリグ・プジャスヤンさん。学業を続けられなくなりそうになったとき助けてくれた日本人恩師の思い出を語る宋定國さん。ビルマ戦線を生き残り、台湾に帰還してからは二・二八事件で拷問を受け、白色テロで弟を殺された蕭錦文さん。日本語世代、五人の方々が語る台湾現代史。

 監督の酒井充子さんは1969年生まれ、ツァイ・ミンリャン監督「愛情萬歳」を観て台湾に関心を持ったという。戦後、国府対中共の枠組みが日本国内における保守・革新という政治対立と結び付き、そうしたフィルターを通して台湾を見ていた時代とはもはや無縁な世代である(私自身もそうだが)。

 私も以前、この映画に出演している蕭錦文さんとは違う方だったが、総統府や二・二八紀念館でガイドをしてくださった日本語世代のおじいさんから話をうかがったことがある。異口同音、激越な口調で蒋介石を罵るのを聞いて驚いた。そのことはこちらに書いた(→「台湾に行ってきた④(総統府)」、「台湾に行ってきた⑤(二・二八紀念館)」、「台北探訪記(2) 二二八紀念館再訪」)。民進党への政権交代があって可能となったことである。馬英九政権となり、総統府では蒋介石批判はできなくなったという話も聞くが、どうなのだろう。この映画の撮影時はまだ2007年、陳水扁政権の終盤であった。

 「日本人として戦争に行ったのに、日本政府は私たちを捨てた、せめて感謝の気持ちをどうして表わしてくれないのか」という話が耳に強く残る。観光旅行でたびたび行って台湾への親近感を語る日本人でも、国民党による二・二八事件、白色テロといった歴史を知らない人が意外と多くて驚いたことがある。日本人たるべきことが自明視された植民地時代、国民党という外来政権による暗く疎外された時代、そうした転変する時代環境を経てきたことを考え合わせると、日本語を使い続けること自体に、不遇な時代の中で自分たちが生きていく上での一つのよすがというか、精神的な拠り所を求めようとした懸命な何かが窺われてくる。日本への愛着を語るからといって、それを単純に“親日”という政治的ロジックに括ってしまう気持ちにはなれない。そういうのは日本人側の自己満足に過ぎない。一人一人が語るとき、表情に刻まれる陰影はもっと複雑だ。

 実は上映初日に観ようと思って早めに上映館に行ったところ、すでに長蛇の行列ができていて、しかもその時は一日一回という上映ペース、結局入れず断念した。今回、ようやく観ることができた次第。関心は高いようだ。

【データ】
監督:酒井充子
2008年/81分
(2009年8月8日、ポレポレ東中野にて)

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