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2009年8月25日 (火)

佐野眞一『小泉政権──非情の歳月』『凡宰伝』『新 忘れられた日本人』、他

 佐野眞一『小泉政権──非情の歳月』(文春文庫、2006年)。異形の秘書官・飯島勲、外相に任命されたものの更迭された田中真紀子、姉で日常的な采配を振るう小泉信子、こうした三人を通して小泉の人物像を間接的に浮き彫りにしていく構成。かなり厳しい家庭環境からはいあがった飯島勲という人のバイタリティーに驚く一方で、ガードの極めて高い田中家、小泉家をすき間から垣間見た印象はちょっと尋常ではない。肝心なテーマであるはずの小泉純一郎へのインタビューはなく(小泉家の閉鎖性はインタビューを受け付けない)、小泉の描き方がいまいちピンとこなくて、佐野さんの作品にしてはもの足りない。

 小泉純一郎、田中真紀子などマスコミでもてはやされる政治家の人物像が魅力に乏しいのに対して、悪役扱いされた方にかえって人情味ある苦労人がいることに時々驚くことがある。例えば、魚住昭『野中広務 差別と権力』(講談社文庫、2006年)によって抵抗勢力の首魁のような印象があった野中という人を見る眼が完全に変わったし、佐藤優の書くもので鈴木宗男の意外な側面に驚いたりもした。

 悪口を書かれるかもしれないのに敢えて取材に積極的に協力する姿勢を見せたのが小渕恵三である。佐野眞一『凡宰伝』(文春文庫、2003年)。この人も悪役とまでは言わないが、在任中はずっとバカにされ続けていた。しかし、彼自身がバカにされていることを知っており、自らを戯画化さえしてみせた。バカにされていれば警戒はされない、それを逆手に取って相手の懐に飛び込んでいくというしたたかさが小渕の侮れないところである。気配りの小渕ではあるが、性格的な芯はかなりきつい。「自分は凡人だから、とにかく一つのことに一生懸命になるしかない」という発言は当時の新聞記事で読んだ覚えがあった。凡人であっても、そのことを自覚して、むしろ凡人であることに徹して意識的に努力すれば“非凡”であり得る、この不思議な逆説が興味深い。大学受験に失敗して浪人中、太宰治の研究をしていたというのが意外だった。

 佐野眞一『新 忘れられた日本人』(毎日新聞社、2009年)。佐野さんがこれまで取材してきた中で強烈な印象が忘れ難い人物群像を点描する。タイトルはもちろん、宮本常一『忘れられた日本人』(岩波文庫、1984年)を意識しており、そのいわば現代版という自負があるようだ。これは私も好きな本だが、宮本の描く庶民の姿は美しすぎるという感想をもらす人もいるし、民俗学的な聞き書きというよりは、私はむしろ登場人物の魅力にひかれて文学作品のように読んだ覚えがある。単に昔のことを記録するというのではなく、人々の息づかいが文章に写しこまれているという意味で。良いとか悪いとかいう価値判断を超えた次元で、各人各様の生き様があるものだとつくづく思う。そうした迫力を見極めていく眼力が佐野さんの作品の魅力だと思っている。本書の中でで興味を持った人物が見つかれば、それを手がかりに佐野さんの他の著作を手に取ってみるとまた奥行きが広がっていくだろう。

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コメント

数ある小泉本の中で私が一番驚いたのは、松田賢弥氏が書いた『無情の宰相‐小泉純一郎』です。
あんな家族の内幕があるなんて今まで知りもしませんでした。

投稿: さとし | 2009年8月24日 (月) 21時19分

その本を読んだことはありませんが、小泉家の血族意識はちょっと異様な感じはしますね。

投稿: トゥルバドゥール | 2009年8月25日 (火) 17時00分

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