…というわけで、藤沢周平
お盆休みを利用して佐渡島・庄内平野へ出かける予定。どこでもいいから青春18切符を使って安上がり旅行でもしようというのが当初の思惑だったのだが…。東京発の場合、夜行快速で距離を稼ぐのが基本。ムーンライトながら(大垣行き)は使ったことあるから、ムーンライトえちごにしよう、日本海側には滅多に行く機会ないし、佐渡島でも行ってみようか、などと思いながら指定券をとろうとしたら、出発予定日はすでに満席。へこんだ。
しかし、気持ちはすっかり佐渡へ行くつもりになっている。よし、夜行バスならどうだ?と調べたら、新潟行きの空席あり。ゲット! しかし、青春18切符旅行ではなくなった。大義名分はどうするか?(ま、そんなもんいらないんだけど)佐渡と言えば北一輝。でも、佐渡だけじゃつまらない。日本海沿岸つながりで庄内平野まで足をのばそう。庄内といえば、大川周明と石原莞爾──。というわけで、“日本右翼ふるさと探訪の旅”(笑)なる企画に落ち着いた次第。
佐渡関係の人物としては、流人では文覚、順徳上皇、日蓮、京極為兼、日野資朝、世阿弥、佐渡生まれでは北の他に司馬凌海、土田麦僊・杏村兄弟、青野季吉、有田八郎、本間雅晴、林不忘といったあたりがいる。庄内関係では、大川・石原の他に清河八郎、高山樗牛、阿部次郎、小倉金之助、服部卓四郎、土門拳、そして忘れてならないのが藤沢周平。
周知の通り、藤沢周平作品架空の舞台・海坂(うなさか)藩のモデルは、周平の故郷・庄内藩である。本来なら、庄内→海坂→藤沢周平と連想するのが常識人か。
実は、私は藤沢作品をそんなに読んでいない。覚えているのは、雲井龍雄を描いた『雲奔る』(文春文庫、1982年)、映画「武士の一分」の原作となった『隠し剣秋風抄』(文春文庫、1984年)くらい。それでも、藤沢作品の筆致のイメージはすぐにわいてくるのが我ながら不思議。中高生くらいの頃、歴史小説が好きだったので何か読んだのかもしれないが、忘れてしまった。別に嫌いというわけじゃない。読み始めたらのめりこむ。ただ、他に読みたい本、読むべき本がありすぎて、プライオリティーが高くなかったというだけ。
早速、藤沢作品をいくつか手に取った。最も評判が高いのは『蝉しぐれ』(文春文庫、1992年)。藩のお家騒動を背景に、青年・牧文四郎の成長を描く一種のビルドゥングスロマンという感じ。少年期の淡い恋心と大人になってからの陰謀騒動とのからみ、一気呵成に読み進んでしまう面白さ。『回天の門』(文春文庫、1986年)。新撰組の母体ともなった浪士組を組織した清河八郎の生涯。能力はあるが性狷介、とかく評判の悪い清河だが、庄内なんて辺地に逼塞していたくない、大舞台で自分の能力を試したい、そのようにウズウズした熱意を肯定的に描く。そういえば、大川周明も清河の評伝を書いていたはずだ。郷土の先人として清河を慕う気風があるのか。
『半生の記』(文春文庫、1997年)。生い立ちや身辺雑記をつづったエッセイ集。どもりだった少年期、結核の療養生活、挫折を抱え込んだコンプレックスから他人の視線に敏感にならざるを得なかったことが一つの観察眼を生み出しているのか。それが意地悪にはならず、人の感情をこまやかにすくい取って描き込む方向で作用しているところが、叙情的な時代物という藤沢イメージにつながっているようにも思われる。『周平独言』(中央公論新社、2006年)。これもエッセイ集。庄内の土地柄に絡めて清河八郎、石原莞爾、大川周明という三人の比較論をやっている文章に興味を持った(「三人の予見者」)。カリスマ的な予見者として三人に共通点を見出すほか、庄内藩は徂徠学を藩学としていたが、その中にも恭敬派と放逸派とがあって、清河や石原の率直な物言いには放逸派の伝統が見られること、二人とも敵が多かったことを指摘。少年期に見かけた、普段は怠け者のくせに東亜連盟に入って騒ぎまわっていた爺さんのこと、その一方で、石原が奨めた東亜連盟方式の農法に黙々と取り組む人々のことも記されている。
そういえば、佐高信(この人も庄内出身)が何かで藤沢周平と司馬遼太郎とを比較してたが、藤沢=庶民の視点→良い、司馬=英雄史観→ダメってな具合(苦笑)。こういう脳ミソ単細胞はほっとくしかないな。
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コメント
はじめまして
藤沢周平に反応したわけでなく、
失礼します。
いつも興味深く読ませて貰っています。(自身の“見る・読む・歩く”を随分刺激してます)
最近、貴方の“音楽の迷宮”に御無沙汰しておりますが。
いずれ書かれることを期待しております。
それでは良い旅を…。
「佐渡情話」は出てこないか…。
投稿: 山猫 | 2009年8月13日 (木) 02時16分
山猫様、はじめまして。
無事、戻ってまいりました。コメントの公開が遅れまして、失礼いたしました。
興味のおもむくまま適当に書きなぐっているだけですので、それこそ“迷宮”ならぬ迷走状態ですね(笑)
何はともあれ、おつきあいいただきまして、ありがとうございます。
投稿: トゥルバドゥール | 2009年8月17日 (月) 18時32分