白戸圭一『ルポ 資源大陸アフリカ──暴力が結ぶ貧困と繁栄』
白戸圭一『ルポ 資源大陸アフリカ──暴力が結ぶ貧困と繁栄』(東洋経済新報社、2009年)
資源輸出をテコにして一定の経済成長も少なくとも統計数字上はうかがわれるアフリカ。それにもかかわらず、実態は今さら言うまでもなかろう。本書は、毎日新聞のヨハネスブルク特派員として南アフリカ、モザンビーク、ナイジェリア、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、スーダン、ソマリアなどの各地を歩いて現場を見聞したルポルタージュ。
南アフリカの治安の悪さは有名である。組織犯罪、人身売買、そして絶え間ない暴力の日常──。国全体が貧しい場合にはこれほど治安が悪化することはない。しかし、南アは貧困と経済大国としての豊かさとが並存したいびつな状態にある。スラムのすぐ目の前に富がある。むしろ、極端なまでの貧富の格差が人びとの気持ちを荒ませ、暴力で奪い取ろうとさせる構図が指摘される。本書の最後、著者の知人が交通事故で公立病院に運び込まれたが放置されて死んでしまった問題からは、南アにも高度な医療技術があるにしても、かつてアパルトヘイトの時代は白人、現在は金持ち(つまり、政治活動を通して特権階層にのし上がった黒人)以外はアクセスできないという現実がうかがえる。
コンゴの大統領選挙では、人びとの鬱積した不満が排外主義的・暴力的な主張に取り込まれていく様子が観察される。コンゴやスーダンが資源輸出による資金で軍備を購入、それが内戦や政治弾圧に使われていることは周知の通りだろう。中国のアフリカ進出がここのところ目立つが(とりわけ、ダルフール問題を抱えるスーダンへのバックアップは国際世論の批判の的となっている)、事実上無政府状態に陥っているソマリアですら中国人技術者と出会ったというのが驚きだ。こうした中国人のアフリカ進出のことは松本仁一『アフリカ・レポート』(岩波新書、2008年)でも記されていた。現地では、政府による抑圧構造の背景に中国が存在しているとして人びとの反発を受け、それが場合によっては排外主義の的となって暴力的な襲撃を受けてしまうこともあるらしい。
何かが、どこか、タガが外れてしまっている。そこには構造的な要因があるはずなのだが、その解法がなかなか見つけられないもどかしさ。本書はそうした困難なアフリカの問題を、現地の様々な人から聞き取った記録を通して報告してくれる。
アフリカの問題については、以前、ロバート・ゲスト(伊藤真訳)『アフリカ 苦悩する大陸』(東洋経済新報社、2008年→こちら)、松本仁一『アフリカ・レポート』他(→こちら)を取り上げたことがある。経済的・政治的構造についてはポール・コリアー『最底辺の10億人』(→こちら。邦訳は、中谷和男訳、日経BP社、2008年)、『戦争・銃砲・投票──危険地帯のデモクラシー』(→こちら)も読んだ。ソマリアについてはこちら(→①、②、③)にまとめた。スーダンのダルフール問題については、ダウド・ハリ(山内あゆ子訳)『ダルフールの通訳』(ランダムハウス講談社、2008年→こちら)がある。コンゴ民主共和国近隣で拡大した紛争の要因としてルワンダのジェノサイドについても触れられるが、当事者の記録として、ポール・ルセサバギナ『An Ordinary Man』(→こちら。邦題『ホテル・ルワンダの男』堀川志野舞訳、ヴィレッジ・ブックス、2009年)、ロメオ・ダレール『悪魔との握手──ルワンダにおける人道の失敗』(→こちら)を取り上げた。特に、『悪魔との握手』は平和維持活動の問題を考える上で必読だと思っているのだが、邦訳はまだない。どこかが版権をおさえているらしいので、遠からず刊行されるものと期待している。
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