松田康博編著『NSC 国家安全保障会議──危機管理・安保政策統合メカニズムの比較研究』
松田康博編著『NSC 国家安全保障会議──危機管理・安保政策統合メカニズムの比較研究』(彩流社、2009年)
政府内において安全保障政策の総合的企画・立案・調整を担当する組織部門の比較研究をテーマとした論文集。アメリカのNSC(National Security Council、国家安全保障会議)が代表的だが、他に韓国、台湾、ロシア、中国、シンガポール、イギリス、日本を取り上げる(ただし、中国には該当する組織部門がなく、安全保障政策形成過程を示すことで比較対照)。それぞれの制度や設立経緯を紹介するだけでなく、運用上の問題にも目配りしている。執筆陣は防衛省防衛研究所の関係者が中心だが、純粋に学術的な内容。Ivo H. Daalder and I. M. Destler, In the Shadow of the Oval Office: Profiles of the National Security Advisers and the Presidents They Served─From JFK to George W. Bush(Simon & Schuster, 2009)という本を読んでいたのだが(途中まで読んでほったらかしだが)、たまたま本書を見かけ、この辺のことをよく知らないので勉強のため手に取った次第。関心を持った点をいくつかメモ書き。
・大統領直属という性格から、法的・制度的な裏付けのないケースが多い。
・研究者などの民間人を政治任用しているケースが多い。また、組織肥大化の傾向あり。
・制度的な問題もあるが、どんな制度であっても、人的要因によってその運用が左右される。
・アメリカの現在のNSCの特徴は、In the Shadow of the Oval Officeでも指摘されているが、チームワーク重視と非公然活動の抑制。かつてニクソン政権の安全保障問題担当大統領補佐官キッシンジャーが国務長官を無視して華々しい外交成果を挙げたが、カーター政権のブレジンスキー補佐官は国務長官と対立して外交活動が頓挫→補佐官は省庁間の誠実な仲介者としてチームワーク作りを行なうことが重要な任務と期待されるようになった。キッシンジャー型の独断専行を嫌ったレーガン政権においてNSCの存在感は低下→表舞台ではない所でNSCが勝手に非公然活動→イラン・コントラ事件→NSCの建て直し、という経緯あり。(なお、In the Shadow of the Oval Officeの著者による要約がForeign Affairs, January/February 2009に掲載されており、こちらを読めば歴代補佐官の活動を通してアメリカのNSCの歴史が概観できる。着実な調整活動によって政策決定上のリーダーシップを発揮した例としてパパ・ブッシュ政権のスコウクロフト補佐官が高く評価されていた。)
・韓国は金大中・盧武鉉の対北朝鮮“太陽政策”、台湾は中国からの圧力が多元化するようになった→軍事対決というだけでなく、接触・交渉も含めて総合的な安保政策を立案する必要からNSC型組織を重視。
・安保政策を立案する上では、様々な政策分野を一元的に統合する強力なリーダーシップが理想的。その補佐として企画立案・関係省庁の調整にあたるのがNSCの役割。当然ながら、大統領の権限強化が目指されるため、独走しないように常にアカウンタビリティーが必要。
・中国はかつての毛沢東独裁のトラウマがあるため集団指導体制を取っている→NSC型組織を現時点では持っていない。安保政策は中央軍事委員会で決定されており、国家次元で意思統一が図られているのか不透明だと指摘。
・イギリスは議院内閣制だが歴史的に政府・与党一体化しており、首相のリーダーシップがもともと強い。政府・与党(自民党)二元体制の日本とは異なる。
(※なお、民主党のマニフェストを見ると国家戦略局なるものを創設するらしいが、NSCを目指しているということか? そう言えば、安倍政権の時にも日本版NSCを作ろうという動きがあったな)
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