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2009年8月29日 (土)

ヴィーリ・ミリマノフ『ロシア・アヴァンギャルドと20世紀の美的革命』

ヴィーリ・ミリマノフ(桑野隆訳)『ロシア・アヴァンギャルドと20世紀の美的革命』(未来社、2001年)

・本文中に登場する作品について100点のカラー図版が巻末に収録されており、ロシア・アヴァンギャルド美術史の簡潔な入門書として手頃な本。
・ロシア・アヴァンギャルド芸術の前時代との質的な転換点は1914年前後に求められるという。ちょうど第一次世界大戦が始まり、帝政ロシアとソ連体制との狭間に華ひらいた束の間の時代。西欧における世紀末芸術と軌を一にしているが、本書は同時発生というよりも西欧からの影響が先にあったと考えている。
・マレーヴィチのスプレマチズム→無対象芸術。あらゆる従属、あらゆるイデオロギーからの解放→社会的平等の極致という意図。
・同時に、スプレマチズムは合理主義的な未来の世界秩序というプロジェクトを芸術において具体化しようとしていた。背景には、全能の科学というイメージに基づくユートピア志向。科学信仰のオカルト的表現としてはフョードロフの〈共同事業〉の哲学も想起される。(さらに言うと、レーニン廟のミイラもオカルト的だ。当時のロシア知識人のオカルト志向はよく指摘されるところだが、ロシアにおける“科学的社会主義”なるものもこうした背景から理解する必要がありそうだ。)
・ただし、ロシア・アヴァンギャルドのユートピア志向と政治権力としてのユートピア志向とでは大きなギャップあり。訳者によるあとがき論文「ロシア・アヴァンギャルドの実相と虚構」によると、スターリニズム的“全体性”志向の源流としてロシア・アヴァンギャルドを捉える議論があるそうだが、知的遊戯としては興味深いにしても議論としては恣意的で成り立たないと指摘。
・このあとがき論文にロシア・アヴァンギャルドと社会主義リアリズムとの対立点が次のようにリストアップされている。
ロシア・アヴァンギャルド:①異化、デフォルメ ②難解にされた形式 ③グロテスク、反遠近法、ザーウミ等の例としての民衆芸術 ④芸術特有の約束事 ⑤プラカード性、時事評論性 ⑥構成 ⑦反心理主義
社会主義リアリズム:①古典的な理想 ②単純さ ③単純明快さとしての民衆性・人民性 ④美的イリュージョン ⑤モニュメンタルな一般化 ⑥有機的テーマ性 ⑦心理主義、リアリズム

 なお、去年、渋谷の文化村ミュージアムで開催された「青春のロシア・アヴァンギャルド」展を見に行った時のコメントはこちら

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