金鳳珍『東アジア「開明」知識人の思惟空間──鄭観応・福沢諭吉・兪吉濬の比較研究』
金鳳珍『東アジア「開明」知識人の思惟空間──鄭観応・福沢諭吉・兪吉濬の比較研究』(九州大学出版会、2004年)
・近代東アジアにおける「伝統と近代」の異種交配現象という視点から三人の代表的知識人を比較思想史的に検討する。
・欧米文明=普遍・正という保証はない→近代化を成功とみなすとしても欧米近代由来の特殊的な負も導入された→清・朝鮮の近代化の失敗には欧米に特殊的な負の導入への抵抗という側面があったことも認識する必要があるという問題意識→「失敗の中の成功」「成功の中の失敗」という様相を捉える。
・鄭観応(1858~1914):中国の条約港知識人。変法派・立憲派→辛亥革命とは対立。単純な東道西器論者ではなく、西道の導入→東道の啓発という考え方。
・福沢諭吉:欧米文明を時間軸で相対化→一国独立に向けて目的化・基準化・手段化。儒教批判→儒教の負の面だけでなく、正の側面=道徳主義まで否定してしまう行き過ぎがあったと指摘(道徳主義→近代文明の負の側面を批判する契機があったはずだという著者の問題意識)。儒教的普遍主義から自国中心主義へと転回したと指摘。(※福沢理解が一面的で私には違和感があった。福沢は欧米文明=唯一の文明と捉えていた、と言う。しかし、福沢は『文明論之概略』で、欧米とて乗り越えられ得るとはっきり書いているが、どうなんだろう?)
・兪吉濬:初期開化派と付き合い→日本・アメリカ留学→近代思想を学ぶ→甲午改革に参加→俄館播遷で日本に亡命→1907年、日本の保護国化された朝鮮に帰国→現実主義的な愛国啓蒙運動に参加。東道と西道との異種交配→欧米文明の正の側面を導入しつつ、儒教文明の負の側面を否定→普遍主義。
・三人の万国公法のあり方、国際政治観、近代国家観を比較検討→福沢は国権重視、対して鄭・兪の二人は普遍性重視という点を強調する。
・本書の問題意識は意欲的で興味深いとは思うけれど、論点の選び方や引用の組み立て方が恣意的という印象を拭えない。たとえば、福沢=天皇大権の主唱者という指摘は明らかにおかしいだろう。
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