児童虐待についての本
川崎二三彦『児童虐待──現場からの提言』(岩波新書、2006年)
・著者は児童福祉司。現場での活動経験を踏まえて具体的な対応のあり方や児童相談所をめぐる制度的問題を指摘する。
・児童虐待:身体的虐待、性的虐待、ネグレクト(養育の怠慢)、心理的虐待
・親権者には民法で懲戒権がある→虐待?しつけ?→社会通念も含めて児童虐待についての合意形成ができておらず、しばしば混乱を招く
・日本では主たる虐待者のうち六割以上が実母
・児童虐待の要因:①多くの場合、虐待する親自身が子どもの頃に大人から愛情を受けていなかった(→世代間連鎖につながりかねない)、②経済不安・夫婦不和など生活上のストレス(貧困など社会環境的要因もある)、③社会的に孤立(親族や地域社会から→こうした人間関係に組み込まれていないため、基本的な生活技術を身につける機会がなかった→育児怠慢につながっているケースもある)、④親にとって意に沿わない子どもであった(望まぬ妊娠、育てにくい子ども、障害があるetc.)
・家庭内の密室空間でおこり、保護者も被害児童も積極的に打ち明けたがらない→発見自体が困難
・国民すべてに通告義務がある→しかし、誤報も一定数ある→それを社会全体で許容できるかどうか
・児童相談所の行なう一時保護だけが強制手段→①子どもの生命の危険を回避、②立ち入ることは保護者の親権への権利侵害であり、また子ども自身の生活環境に悪影響もあり得る→①と②の矛盾をどのように調整するか?→現在は所長の判断のみが法的根拠だが、司法の関与が必要。
毎日新聞児童虐待取材班『殺さないで──児童虐待という犯罪』(中央法規、2002年)や朝日新聞大阪本社編集局『ルポ 児童虐待』(朝日新書、2008年)は新聞連載をもとに多くの事例を紹介。あり得るケースは網羅されているが、総論的。杉山春『ネグレクト 育児放棄──真奈ちゃんはなぜ死んだか』(小学館、2004年)は子どもを段ボールに押し込めて放置、餓死させた事件を、佐藤万作子『虐待の家──義母は十五歳を餓死寸前まで追いつめた』(中央公論新社、2007年)は2003年に岸和田でおこったやはりネグレクトの事件を取り上げたノンフィクション。『ネグレクト』『虐待の家』ともに両親自身の育った背景も追っており、事件に絡まる様々な要因が見えてくる。
森田ゆり『子どもへの性的虐待』(岩波新書、2008年)
・事例紹介・分析と同時に、具体的な対処方法も示す。
・ミーガン法(性犯罪者の情報公開)→しかし、実際には性犯罪をおこすのは身近な人が多い。また、再犯率も必ずしも高くはない→不安感を煽る一方で、身近な性犯罪への注意が乏しくなる。
・加害者が身近な人だと、被害児童に話を聞いてもその人を守ろうとすることがある。
・被害児童が自分に過失があったと思い込んでしまう。
・性的虐待→被害児童が無力感、さらには自己嫌悪感を後々まで引きずる。
・被害状況を話させる→思い出すこと自体が苦痛・葛藤を引き起こす。
・対応する側の問題:①性のタブー意識、②物証がない場合、③事実関係は加害者と被害者しか知らない、④被害児童は周囲の反応を敏感にうかがいながら話す内容を変えてしまうことがある、⑤制度的な問題、⑥社会からの偏見・誤解
・話しても信じてもらえなかった→大人への不信という二次被害
・「蘇った記憶」論争
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