梁賢惠『尹致昊と金教臣 その親日と抗日の論理──近代朝鮮における民族的アイデンティティとキリスト教』
梁賢惠『尹致昊と金教臣 その親日と抗日の論理──近代朝鮮における民族的アイデンティティとキリスト教』(新教出版社、1996年)
第1部 尹致昊の政治思想とキリスト教
・尹致昊(ユン・チホ、1865~1945)は日本・中国・アメリカ留学経験のある知識人。近代国家を目指して「独立協会」会長も務めたが、後に積極的な親日運動、日本の敗戦後に自殺。
・アメリカ留学→当時流行していた社会進化論的な「適者生存の原理」とキリスト教とを結びつけて理解→「産業文明国=善=永遠の至福、非産業文明国=悪=永遠の滅亡」という二項対立的論理による世界観
・アメリカで人種差別体験→文明化に成功した日本に正の価値を認めて「代理的な心の祖国」と位置付けて西欧への反逆を思い描く。他方で、朝鮮は負の価値を負ったものとして認識
・独立協会などの運動に関わるが、百五人事件で逮捕される→権力の怖さを知る
・「強者の不義」は闘争によって獲得された「正当な権利」→弱さは罪→朝鮮独立不可能論
・日本の植民地支配強化→「内鮮一体」以外に選択肢はない→「日本のアイルランドではなく、スコットランドになる」→戦争の拡大・長期化により、日本は朝鮮人の協力を必要としている、この機会に差別的待遇から脱する→「民族の発展的解体論」
第2部 金教臣の思想と「朝鮮産キリスト教」
・金教臣(キム・キョシン、1901~1945)は三・一独立運動に参加後、東京に留学、東京高等師範学校を卒業。内村鑑三の聖書研究会に出席。帰国後は教員のかたわら無教会主義の活動。逮捕・釈放の後、日本の敗戦直前に病死。
・キリスト者の単独性を重んじる無教会主義。「真正な愛国者であると同時に生きた神を知る人」として内村鑑三を尊敬→その上で、朝鮮独自の無教会主義
・「神の僕」として「近代人」を拒否。認識・行為主体としての「近代的自我」を確立すると同時に、信仰を媒介として自己を普遍的な他者に開放→「近代的自我」を超克
・神秘主義的傾向を持つ「復興会」に対しては、現代社会の不義を批判しないこと、シャーマニズム的形態=非理性的と批判。社会的キリスト教運動に対しては教義的な批判
・アメリカの宣教師→人種差別的、またキリスト教とは無関係な要素も流入→アメリカ的・非キリスト教的形式を除去すると同時に朝鮮独自のキリスト教を模索(異教の聖賢君子がキリスト教を知らなかったからと言って地獄に落ちるとは信じがたい)→伝統思想としての儒教との相違を弁別した上で接木→誠実さを重視(※内村鑑三『代表的日本人』を想起させる)
・植民地支配下でも「自己受苦」を責務とする→植民地批判
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