岩田正美『社会的排除──参加の欠如・不確かな帰属』
岩田正美『社会的排除──参加の欠如・不確かな帰属』(有斐閣、2008年)を読みながらメモ。
・社会関係から切り離されている→意思表示できない状態。
・様々な不利の複合的経験(①人的資本:資質・生育環境・教育など、②物的資本:住居など、③金融資本:資産・負債)→一人一人に個別的な問題。
・“貧困”と“社会的排除”は重なり合う概念で解釈の余地が広い→①因果関係として捉える。②重複した部分があると捉える。③入れ子構造で捉える。
・“社会的排除”概念の有効性は?→①“貧困”が個人の状態に重きが置かれるのに対し、“社会的排除”は社会との関係において個人の位置付けを問う視点。②誰がどのように排除するのかと主体の作用を問う視点(国家や社会だけでなく本人という主体も含めて)。③福祉国家の機能不全を示す。
・帰属の問題(家族の扶養、職場等の相互扶助、福祉国家のサービス)が大きい。帰属の定点の喪失→生きていく基点としての住居が必要。
・社会からの“引きはがし”:失業・倒産だけで社会的排除に落ち込むのではなく、離婚・病気・災害等の複合的な要因で定点を失う→社会的排除というケース。
・職場だけでなく家族・近隣関係など様々なチャネルを通した社会参加がもともと中途半端→その延長線上に社会的排除というケース。
・“中途半端な社会参加”の再生産→社会的排除に陥りやすい人々。若者の就職という移行期において“完全な社会参加”獲得に失敗→社会との“中途半端な接合”状態が続く。実家の経済状態や家族関係など人的資本に関わる問題が大きい。
・空間的側面で考えると、社会の周縁をウロウロするだけで中心には取り込まれないという問題。①“寮”(飯場など)、②“ヤド”(簡易宿泊施設など)、③“シセツ”(病院・刑務所など)、④“ミセ”(ネットカフェなど)
・セーフティネットからの脱落。
・生活保護→疾病・障害・老齢などの理由が中心で、稼動年齢層の人々への給付には慎重→行政側には“惰民”をつくることへの危惧。
・そもそも制度を知らない。その日その日をどう生きるかという瀬戸際にある→福祉サービスの“ちょい利用”
・知的障害者→認知されれば障害者手帳を取得できるが、本人に自覚がなく支援に乗り出す人もいなければ放置される。通常は家族や学校等で気付かれるが、そうした関係のないまま生きてきた人々。
・従来の施策は労働参加を強調。しかし、①労働の“能力”はどのように判定するのか。 ②民間企業の斡旋→あくまでも間接的な政策対応。③就労支援→否応なく稼働能力の有無で選別→“失敗した人”の識別→この人々はどうすればいいのか。
・社会的排除に落ち込んでしまう背景として、社会参加へのチャネルから切り離されているという状態がある。社会的包摂を考える場合にも、具体的な労働→経済的自立というだけでなく、ある社会への帰属に向けた現実的基点として住居・住所の確保と市民としての権利義務の回復に焦点を当てる必要。
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