五十嵐真子『現代台湾宗教の諸相──台湾漢族に関する文化人類学的研究』、尾崎保子『保生大帝──台北大龍峒保安宮の世界』
五十嵐真子『現代台湾宗教の諸相──台湾漢族に関する文化人類学的研究』(人文書院、2006年)
戦後台湾における宗教現象についての研究書。民俗宗教というのは、儒・仏・道教のように一定の教義体系を持って制度化された宗教も混ざり合いながら、(ご利益宗教と言ってしまうと語弊があるかもしれないが)生活的・社会的な困難の解決もしくは理解に資する信仰世界と言えるだろうか。信仰世界と現実の社会関係との関わり方(たとえば風水など)を内在的ロジックに応じて把握していくのが文化人類学だが、そこに見られる世界観はもちろん閉じた体系ではない。たとえば、本書で取り上げられる王母娘娘信仰は大陸起源→中華文明の正統性という政治的言説と必ずしも無縁ではないという。また、日本は台湾に明確な宗教的影響を残したわけではないが(たとえば欧米→キリスト教というような)、布教方法や組織原理の面では日本仏教の借用が見られるらしい。漢族社会は父系の血縁組織とされるが、宗教現象では女性の役割が大きいというのも興味深い。
尾崎保子『保生大帝──台北大龍峒保安宮の世界』(春風社、2007年)
保生大帝とは唐もしくは宋代の名医に由来する神様らしい(台湾で祭られている神様は寺廟数の順番で言うと、王爺、観音仏祖、釈迦仏、天上聖母=媽祖、福徳正神=土地公、玄天上帝、関聖帝君=関羽、保生大帝などがある。上掲五十嵐書を参照)。台北にある大龍峒保安宮の装飾画を紹介。『史記』や『三国志』のエピソードが多い。
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