奥野修司『ナツコ 沖縄密貿易の女王』、高木凛『沖縄独立を夢見た伝説の女傑 照屋敏子』
近現代の沖縄には「アメリカ世(ユ)」や「ヤマト世(ユ)」はあっても「沖縄世(ウチナーユ)」はないといわれる。しかし、戦後間もなくのカオティックな数年間こそ「沖縄世」だったのではないか、この時に沖縄人は秘めていたエネルギーを密貿易という形で爆発させたのではないか。そうした問題意識から奥野修司『ナツコ 沖縄密貿易の女王』(文藝春秋、2005年)は金城夏子という女傑の生き様を追いかける。高木凛『沖縄独立を夢見た伝説の女傑 照屋敏子』(小学館、2007年)もやはり同様にバイタリティーあふれる女性の軌跡をたどる。
帰属のはっきりしない混沌とした状況の中、当時の沖縄がある意味ボーダーレスの活況を呈していたことは、最近では佐野眞一『沖縄 誰にも書かれたくなかった戦後史』(集英社インターナショナル、2008年)でも読んだ。佐野書でも魅力的な群像が描かれているが、金城夏子、照屋敏子、この二人の迫力もちょっと並ではない。密貿易に義侠心の厚さとくると女海賊のようなイメージにもなりかねないが、アメリカ軍政の厳しい施策で実際問題として食うことができないという背景があった。女性の活躍という点が目立つが、漁師として遠洋に出る夫が海難で命を落とすことも珍しくなかったので、女性も自活できるよう商売をして自前の貯えをするのは当然という考え方が沖縄にはあったという。金城夏子は若くして亡くなったが、彼女の建てたビルを照屋敏子が買ったという形で二人の接点もあった。白団の関連で旧陸軍の根本博が沖縄経由で台湾に渡ったことが二人の周辺でちらつくのも当時の世相がうかがわれて興味深い。
ただし、二冊とも取材はしっかりしているが、彼女たちの人物的魅力に読者をのめりこませていけるほどの筆力がないのが残念。二人とも題材としては非常に興味深いだけにもったいない。
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