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2009年4月15日 (水)

塩沢槙『東京ノスタルジック喫茶店』、常盤新平『東京の小さな喫茶店・再訪』

 学生の頃から折に触れて神保町など古本あさりにブラブラすることがあった。あの界隈には喫茶店が多い。古びて風格のある喫茶店の前を通りかかったし、作家などのエッセイでそうした店が出てきて気になってもいたのだが、若僧には何となく敷居が高かった。物怖じしなくなったのはようやく三十歳を過ぎてからだろうか。

 しかし、すでに喫茶店文化も様変わりしつつあった。侯孝賢監督「珈琲時光」という映画が好きなのだが、水道橋のエリカというお店がロケに使われていた。ああ、あの店かと思って行ってみたところ、閉店の貼り紙に涙をのむ。ほんの数ヶ月前に通りかかったときはまだやっていたのに…。二、三年ほど前か、知人から中野のクラシックというお店の話を聞き、行ってみたこともあった。不思議なお店だった。ほこりっぽくて薄暗い。木床のフロアが不規則に組上げられた迷宮構造。カフカの小説世界、たとえば『審判』を映像化するとしたらあの裁判所は私ならこんな感じにするかな、などと勝手にイメージをふくらませたが、とにかく物語の舞台にしたくなるような趣きだった。古時計や海外の置物みたいのがやたらと目立つ。面白い。客層も私と同世代が多く、みなアート系の感じ(私は違うが)。気に入ったので一月ほどしてもう一度行ったら、こちらも閉店の貼り紙。つい最近も、職場近くでそれなりに年月を経た良い感じの喫茶店をみつけ、一月ほどして再訪してみたら、やはり閉店していた。そんなことが続いている。

 東京の喫茶店がらみで二冊を手に取った。塩沢槙『東京ノスタルジック喫茶店』(河出書房新社、2009年)。著者は私と同年代。東京町歩き取材をしているうちに喫茶店の魅力にひかれたらしい。写真がふんだんに盛り込まれ、現在と過去を対比できるのが面白い。最初は写真主体の本に仕立てるつもりだったが、店の主人の話を聞いているうちに、店にまつわる人間模様の方が中心になったという。さもありなん。

 常盤新平『東京の小さな喫茶店・再訪』(リブロアルテ、2008年)。著者はもう七十代も後半。普段から通い慣れている喫茶店をめぐって思い出話がつづられる。やはりお店の人間模様が話題の中心となる。喫茶店エッセイではあっても、時にしんみりとした短編小説のような味わいも感じられる。昔と今の、喫茶店だけでなく人間気質の違いが窺えてくるのも面白い。

 二冊とも造本はきれい。何よりも、書き手の眼差しがあたたかいから読んでいてホッとします。

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