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2009年4月 9日 (木)

ジョン・J・ミアシャイマー&スティーヴン・M・ウォルト『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』

ジョン・J・ミアシャイマー&スティーヴン・M・ウォルト(副島隆彦訳)『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』(Ⅰ・Ⅱ、講談社、2007年)

 ミアシャイマーはシカゴ大学教授、ウォルトはハーヴァード大学教授、共に国際関係論におけるネオリアリズムの理論家として著名である。二人ともリアリズムの立場からブッシュ政権のネオコンが画策したイラク戦争を批判。アメリカはなぜ自らの国益に反する外交政策を強行してしまったのか? そうした問題意識からイスラエル・ロビーがアメリカ政治に及ぼす影響を本書は指摘する。アンチ・セミティックなキワモノ陰謀論とは違ってきちんとした政治学的分析なので、その点は誤解なきよう。

 開放的な議会制度をとるアメリカ政治において利益団体政治(ロビー活動)は一般的に行なわれているが、イスラエル・ロビーもまたこの経路を利用して影響力行使に努めている。リアリズムの観点からすれば、イスラエルが自らの国益追求のため最も効果的な手段を選ぶのは当然のことである。しかし、それが果たしてアメリカ自身の国益にかなうのかどうかが問題である。

 イスラエルへの過度の支援が中東諸国からの激しい反米感情をもたらす一因となっており、戦略的観点からすればアメリカにとって明らかにマイナスである。ホロコーストへと至った反ユダヤ主義→ユダヤ人たちの自前の国を持ちたいという願いは当然のことであるが、しかしながら、パレスチナ問題の実際を見れば、人道的根拠から現在のイスラエルの行動を正当化することはできない。イスラエルだって普通の国である。正しいこともすれば、間違うこともある。同情すべきところ、賞賛すべきところは素直に認め、同時に間違ったことをすれば非難するのは当然のことである。

 ウォルトの提唱するオフショア・バランシング(他地域の問題にアメリカは過度に関与すべきではない、アメリカがパワーを行使するのはその地域におけるパワー・バランスが崩れそうな時にだけ限定すべきという戦略論)の観点では、アメリカはイスラエルからもアラブ諸国からも一定の距離を置く必要があるのに、イスラエルはアメリカを中東情勢へ意図的に巻き込み、結果としてアメリカの国益が大きく損なわれていると考える。そればかりでなく、アメリカがシリアやイランと敵対関係になければ、これらの国とイスラエルとの仲介役を果たすこともできたはずで(カーターがエジプト・イスラエル平和条約の締結に尽力したように)、そうした可能性を奪ってしまっている点で長期的にはイスラエル自身の国益にも反している。カーターがパレスチナ問題でイスラエルを批判すると、イスラエル批判→反ユダヤ主義者とロジックをすりかえた中傷キャンペーンがカーターに対して行なわれたらしい。こうしたやり方が、選挙を気にするアメリカの政治家にとってイスラエル批判をしづらい空気をつくっている。国益を基準とした利害計算に徹する→合理性のない政策決定がもたらす無用な混乱を避ける、というところに本書の眼目がある。

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