ケント・E・カルダー『日米同盟の静かなる危機』、孫崎享『日米同盟の正体──迷走する安全保障』
ケント・E・カルダー(渡辺将人訳)『日米同盟の静かなる危機』(ウェッジ、2008年)
歴史的・文化的・経済的な背景も政策意思決定のあり方も全く異なる日本とアメリカ。ダレスのつくった非対称的な性格を持つ日米同盟は安全保障と経済とをいわば取引して成立してきたと言えるが、1990年代以降、グローバリゼーションの進展によって弱体化しつつあるという問題意識を本書は示す。本書は“同盟”概念の比較政治史的な考察を踏まえ(イギリス・ポルトガル同盟が600年以上も続いていることは初めて知った)、そのケース・スタディとして日米同盟を検討していると読むこともできる。
かつて、同盟とはパワー均衡のための戦略的手段にすぎず、用が済めば解消されてしまう程度の短命なものだったが、現代においては経済繁栄や相互依存などを保障する制度的枠組みとしての新たらしい意味も持つようになり長期化している。その長期化の要因について本書は“同盟の自己資本”という分析概念を提示する。9・11以降、日米同盟における軍事協力は強まったが、同盟を包括的に支える経済的基盤や人的な政策ネットワークは弱まり、両国内におけるコンセンサス(日本では安全保障の問題について国内世論の反発が強い)は同盟の当初から欠いたままであることを指摘、具体的な提言へとつなげる。著者はジョンズ・ホプキンス大学エドウィン・ライシャワー東アジア研究所長である。
孫崎享『日米同盟の正体──迷走する安全保障』(講談社現代新書、2009年)
日米同盟は非対称的と言われるが、アメリカの世界戦略にとって重要な拠点を日本は提供して利益をもたらしており、互いにないものを補い合ってウィン・ウィン関係にもっていくという点では取引は十分に成立していると本書は指摘。近年、日米同盟のあり方が対米追随の方向で変質しつつあり、日本の自衛隊はアメリカの世界戦略の下で応分の危険な負担を強いられることになるだろう、その傾向はオバマ政権になっても変わらないという現状認識を示し、日本独自の道を考えるべきことを主張する。
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