ジャクリーン・ノヴォグラッツ『青いセーター:つながっている世界で貧富の格差の懸け橋となる』
Jacqueline Novogratz, The Blue Sweater: Bridging the Gap between Rich and Poor in an Interconnected World, Rodale, 2009
著者は現在、Acumen Fundという非営利の投資ファンドCEOを務めている。もともとチェース・マンハッタン銀行に勤務していたが、海外に出て社会貢献できる仕事をしたいと非営利組織に飛び込み、アフリカに派遣された。現場で奮闘し、その体験を踏まえてAcumen Fundを設立するまでの経緯がつづられる。タイトルの『青いセーター』とは、アメリカで捨てた青いセーターを着ている少年にルワンダの首都・キガリで偶然出くわしたことに由来する。古着が援助として送られていたわけだが、目に見えないところでも世界はつながっていることをほのめかしている。
アフリカの現場に飛び込んだ当初、彼女の“熱意”が必ずしも現地の人々に受け容れられるわけでもなく、失意の中、家族のもとに帰ることもあった。しかし、めげずに奮闘、ルワンダでマイクロファイナンスの手法を使い、女性中心のパン屋さんを軌道に乗せることに成功する。そのプロセスで、返済の義務を説いたり(未返済者を見逃すと真面目に返済した人は嫌気がさす)、簿記の収支のシステムを納得させたり、約束の遵守、品質管理など経済活動の基礎中の基礎から取り組んでいくところが興味深い。何よりも、男性優位の伝統的社会の中で、自前の経済的基盤をつくることで女性たち自身が尊厳を回復していく。
アフリカでの経験を踏まえてマネジメントの手法をMBAで習得しようとアメリカに戻っていた1994年4月、彼女はルワンダからのニュースに青ざめた。あの忌まわしい大虐殺──。その後、ルワンダに戻った彼女はかつてパン屋さんだった建物を訪れたが、そこには見知らぬ人が暮らしていた。生き残った何人かに会って話を聞く。あの時の仲間たちのうち、ある者は殺され、あるいは家族を失い、そして、ある者は殺す側にまわっていた…。
しかし、ルワンダの復興とともに、生き残った女性たちは再び活動を始める。ジャクリーヌと仲間たちのまいた種は無駄にはなっていなかった。彼女はアメリカに戻ってAcumen Fundを設立。こちらはマイクロファイナンスとは異なり、インフラ整備のための大規模事業にも積極的に投資を行なっていく。その具体的活動も紹介される。
貧困国への一方的な援助が、現地の状況を無視して非効率・無意味であるばかりでなく、腐敗の温床となるなどかえって状況を混乱・悪化させてしまっているという問題意識はたとえばジェフリー・サックス(鈴木主税・野中裕子訳)『貧困の終焉──2025年までに世界を変える』(早川書房、2006年→こちらで触れた)、ポール・コリアー(中谷和男訳)『最底辺の10億人』(日経BP社、2008年→こちらで触れた)などで示されている。援助に依存させるのではなく、その国の経済的自立を促す。そのために市場経済を適切に確立させることが基本ラインとなる。彼らの議論はマクロ視点だが、それでは、現場ではどんな取り組みがなされているのか、それを具体的に知りたいという人に本書はおすすめできる。
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