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2009年3月20日 (金)

「ワルキューレ」

「ワルキューレ」

 1944年7月、ヒトラー暗殺未遂事件。作戦会議室でカバンに入った小型爆弾が炸裂、しかしヒトラーはかすり傷だけで奇跡的に助かった。計画の立案者であったシュタウフェンベルク大佐を中心に事件前後の動向を描く。テンポのよさに緊張感のあるストーリー展開で、一種のポリティカル・サスペンスとして見ごたえはあると思う。タイトルは、非常時における予備軍動員令“ワルキューレ作戦”に由来する。ヒトラー暗殺と同時にこのオペレーションを発動させてベルリンを制圧する計画だったが、参加者の逡巡からほころびが生じ、失敗。粛清の嵐が吹き荒れる。

 暗殺計画の背景としては、第一に無謀な戦争でドイツが破滅に突き進むのを食い止めようという愛国心があるが、第二に、ドイツ国防軍の高級将校にはプロイセン以来の貴族意識を持つ者が多く、成り上がり者のナチスに対する軽蔑があったことも挙げられる。国防軍と並立する軍事組織としてヒムラー率いるSS(親衛隊)が存在し、ヒムラーは国防軍も自分の影響下に置こうとしていたことへの反感があった。映画の中で、ヒトラーだけでなくヒムラーもターゲットにすべきと執拗な主張があったのは、国防軍が仮に叛旗を翻したとしてもSSに鎮圧されるおそれがあったことと、こうしたヒムラー個人への反感と両方が背景として挙げられる。

 シュタウフェンベルク側、ヒトラー側双方から矛盾した命令が出されても、電信室は「とにかく職務を遂行するのが自分たちの義務だ」と言ってそのまま流すシーンがあった。さり気なく挿入されたシーンだが、第三帝国の特徴を端的に表わしている。上からの命令があれば私的な見解は保留して組織行動に徹するという、社会学的な理念型としての“官僚制”の純粋な具現化(これが大規模に組織化されていたからこそ、ユダヤ人虐殺も職務として粛々と遂行された)。シュタウフェンベルクはこの特徴を逆手にとって“ワルキューレ作戦”を利用しようと目論んだわけだが、それ以上に、生き残ったヒトラーの“カリスマ”があまりにも圧倒的だった。

【データ】
原題:Valkyrie
監督:ブライアン・シンガー
出演:トム・クルーズ、ケネス・ブラナー、テレンス・スタンプ、他
2008年/アメリカ・ドイツ/120分
(2008年3月20日、新宿ピカデリーにて)

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