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2009年3月 2日 (月)

猪木正道『ロシア革命史──社会思想史的研究』

猪木正道『ロシア革命史──社会思想史的研究』(中公文庫、1994年)

 著者の猪木正道は河合栄治郎門下のリベラリスト。日本の敗戦直後、1946年に本書は書き上げられている。当時はロシア革命史について研究しようにも党派的なパンフレットの類いしかなかったという。猪木は、マルクス“思想”のしっかりした読解を踏まえた上で、そうした党派的に平板化されたマルクス“主義”の問題点を内在的に批判していく視点を持っている。

 土着か、それとも西欧化か?という葛藤は現在に至るもロシア思想史を特徴づける基本ラインだと言える。本書によると、レーニンは西欧マルクス主義とは異なるロシア特殊の条件を踏まえ、①工業化以前の段階→農民層重視の革命戦略、②ツァーリズムによる苛烈な弾圧→対するに少数精鋭的戦闘集団の形成(→中央集権化志向→異論者への弾圧)、③民主主義の社会的条件が未成熟→革命独裁の正当化、こうした形で、西欧思想直訳的(ロシア社会民主労働党のメンシェヴィキ、穏健リベラルのカデット)でもなく、土着性依存(ナロードニキ→社会革命党)でもなく、独自の革命戦略をとり得たところにボルシェヴィキのレーニン主義が成功した要因があったと指摘される。本書はレーニンの柔軟な政治感覚を高く評価しつつも、これはあくまでもロシア特殊の事情に基づく政治戦略だったのであり、“マルクス・レーニン主義”と称してそのまま日本に持ち込もうとする傾向に対しては疑問を呈している。

 革命の勃発から一国社会主義の形成に至る政治過程の説明・評価については現在の研究水準からすると色々と問題もあるだろう。ただし、ロシア革命がおこる前史としての思想史的系譜の整理は簡にして要を得ており、この部分はいま読んでも有益だと思う。

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