P・J・カッツェンスタイン『文化と国防──戦後日本の警察と軍隊』
P・J・カッツェンスタイン(有賀誠訳)『文化と国防──戦後日本の警察と軍隊』(日本経済評論社、2007年)
戦後日本における警察及び軍隊のあり方を考えてみるとき、暴力的手段の行使には極めて抑制的な態度を取ってきたことが一番の特徴として挙げられるだろう。これはなぜなのか? 文化的規範が安全保障政策に及ぼした影響の分析が本書のテーマである。
リアリズム(パワー・ポリティクス)は、合理的計算に基づいて振舞う国家がパワーの最大化を図ろうとする点を前提として置き、いかにそのバランスをとるかという視座から国際関係を把握する。リベラリズムは、国際関係の中で定式化された一定の規範に従って国家が協調的に振舞う側面に注目する。いずれにしても国家という政治的アクターを単一のまとまりとみなし、その外的環境への態度の取り方から説明しようとしている。
対して、本書が踏まえているコンストラクティヴィズム(構成主義・構築主義)では、国家というアクターの中から行動を規制している内部的な規範の形成過程が重視される。つまり、国際システムにおける政治力学への適応というよりも、国内における政治的・社会的・文化的な相互作用を通して制度化された規範に基づいて安全保障政策が形成されたという観点から本書は日本政治を分析している。制度化というのはつまり、当たり前のこととして自明視された規範意識が国民の間に共有されることにより、その枠組みの中で政策決定の選択肢がおのずと絞り込まれてくることを指す。
具体的には、“平和国家”“通商国家”といった自己イメージ(集団的アイデンティティ)。それは良い悪いという価値判断の問題とは次元が異なり、規範として作用している時点で一つの社会的事実となっていることに着目される。歴史的経緯(敗戦、原爆、日米関係など)、調整型の民主主義(多数派の自民党は野党の意向を無視して政策強行はできず、広い意味でのアイデンティティ規範のあったことがわかる)、社会的規範と法的規範との相互作用(たとえば、警察は市民の視線に敏感なこと、憲法第九条の問題)などの面で、国内的に競合する要因のせめぎ合いを通して規範としてのコンセンサスが形成されていた。
原書は1996年に刊行されており、時代背景として若干古さを感じさせる点もあるが、コンストラクティヴィズムの分析アプローチによる事例研究として興味深い。
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