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2009年1月13日 (火)

古代文字や考古学のなつかしい本

 御茶ノ水駅を降りて神保町に向かう途中、明治大学の手前あたりのビルの一室に聖書考古学資料館というのがある。前を通りかかるたびに気になってはいたのだが、月・土曜の午後のみ開館とのこと。先日、神保町に行った折、たまたま日時が合ったので入ってみた。

 特別展示として「聖書の世界と文字」展。パネル解説は簡にして要を得てわかりやすい。こじんまりとした部屋なので展示品が限られてくるのはやむを得ないが、それでも円筒印章、コイン、鏃、陶片などきちんと陳列されている。2メートルほどもあろうか、アッシリア王シャルマネセル三世の戦勝記念碑、ブラック・オベリスクのレプリカが目を引く。

 私自身はクリスチャンではないが、幼稚園はキリスト教系で、小学校にあがってからもしばらく日曜学校に通っていたので聖書には馴染みがある。大学では名目上指導教官となっていただいた先生のご専門が聖書考古学だったので、この分野について一通りの見当はつく。キリスト教系大学ではないし、その先生ご自身もクリスチャンではなかったが、パレスチナ地域の考古学=聖書考古学という括り方。さらに旧約聖書に登場する世界はエジプトからメソポタミアまで広がり、いわゆる古代オリエント世界を大きくカバーすることになる。

 この世界には系統不明の民族も含め様々な人々が入り乱れていたわけで、聖書の背景を考えるには、やはり言語や文字の多様性が注目される。旧約聖書はヘブライ語だけでなくアラム語で書かれている部分もあるし、そもそもイエスはヘブライ語ではなくアラム語をしゃべっていたわけだし、新約聖書の書き言葉はコイネーだ(ヘレニズム時代のギリシア語。いわゆる古典ギリシア語ともまた違うらしい)。また、古代エジプト語や古代メソポタミアの楔形文字文書を解読することで聖書の背景世界を別の視点から裏付けることができる。だから、聖書の世界を知るには、古代文字の知識も必要となってくるわけだ。

 むかし古代文字に興味を持っていた時期もあったので色々と思い出し、帰ってから本棚を引っ掻き回した。レスリー・アドキンズ、ロイ・アドキンズ(木原武一訳)『ロゼッタストーン解読』(新潮文庫、2008年)はつい最近買ったばかりの本だ。シャンポリオンを中心に、ロゼッタ・ストーンの解読競争をドラマチックに描いている。

 私は中学、高校生くらいの頃、シャンポリオンに憧れていた。考古学に興味を持つ人はよくシュリーマンを挙げるが、私の場合、『古代への情熱』を読んでもそれほどピンとこなかった。前半の生い立ちを語るところは面白かったけど。肉体労働はいやなんで、土掘りよりも、古代文字の解読の方にロマンを感じていた。自分の愚鈍な頭のことは棚に上げて、怠け癖がよく分かる。まあ、それだけでなく、土器や石器を通して推測を重ねるよりも、文字を通して具体的な描写を読みたいという気持ちの方が強かったように思う。その点では物語志向だったし、今でもそうだ。

 C・H・ゴードン(津村俊夫訳)『古代文字の謎──オリエント諸語の解読』(社会思想社・現代教養文庫、1979年)、矢島文夫編『古代エジプトの物語』(現代教養文庫、1974年)、酒井傳六『古代エジプトの謎』(現代教養文庫、1980年)が出てきた。あと、T・H・ガスター(矢島文夫訳)『世界最古の物語』(現代教養文庫、1973年)も持っているはずなのだが、見つからない。社会思想社は結構この手の本を出していたんだな。つぶれたからもう入手不可。それともどこかが復刊するかね。なお、ゴードン書の訳者、津村俊夫氏は聖書考古学資料館の理事長です。

 『世界最古の物語』『古代エジプトの物語』、いずれも楔形文字やヒエログリフの解読によって明らかにされた当時の神話や説話を集めている。『ギルガメシュ叙事詩』も同様に矢島文夫氏の訳で現在はちくま学芸文庫に入っているが、私は大学の図書館で山本書店版を読んだ。言うまでもないが、山本七平氏の出版社である。稼いだ印税をつぎ込んで、明らかに売れそうにない聖書考古学の学術書も良心的に刊行していた。

 ギルガメシュ叙事詩のおおまかな内容はそれ以前に高校生の頃、世界の神話を取り上げたシリーズもので読んだ覚えがある。永遠の生命なんて果たしてあるのか?というなかなか深遠なテーマで、色々とイマジネーションをふくらませることができそうな感じがした。森の神(たしか、レバノン杉がまだ鬱蒼と茂っていた頃の象徴)フンババの、この“フンババ”という語呂がその頃からなぜか頭にこびりついていて、今でも時々脳裡に浮かぶ。

 ドーブルホーファー(矢島文夫他訳)『失われた文字の解読』(全三巻、山本書店、1963年)は高校生の頃に図書館で読んだ。書誌データを調べてみると、かなり古い本だったんだな。矢島氏の本では『知的な冒険の旅へ』(中公文庫、1994年)も好きで持っているはずなのだが、どっかに紛れ込んで見つからない。杉勇『楔形文字入門』(中公新書、1968年)という古い本もあるはずなんだが、やはり行方不明。ツェーラム(村田数之亮訳)『神・墓・学者』(中央公論社、1962年)も図書館で読んだが、その後古本屋で見つけて買った。この本もストーリー性があって好きだった。江上波夫『聖書伝説と粘土板文明』(平凡社・江上波夫著作集第5巻、1984年)も読みやすくて好きだったが、これも図書館で読んだ。この手の発掘もの、文字解読ものを図書館の埃っぽい(ここがミソ!)本で手に取って、ワクワクしながらページをめくったあの頃を思い出すと、胸がキュンとなります。

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