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2009年1月18日 (日)

キム・ギドク監督「弓」

キム・ギドク監督「弓」

 陸も見えない波間に漂う船の上。老人と、拾われてきた少女、二人きりの世界。時折訪れる釣客にいたずらされても少女は全く動じず、余裕のある微笑みを崩さない。老人が弓矢で守ってくれるからだ。絶対の信頼。少女が17歳になるのを待って二人は結婚するのだという。老人は、その日の来るのを心待ちに、一日一日とカレンダーに印をつけている。ところが、釣客に交じっていた青年と出会って、少女は外の世界を知る。老人の束縛を疎ましく感じるようになった彼女の惑い。二人の関係にきしみが萌し、老人はこのどうにもならぬ成り行きに焦り始める。

 モチーフとなっている弓の意味合いは両義的だ。矢をつがえれば相手を傷つける凶暴さを示すが、他方で、胡弓として旋律を奏でれば二人の穏やかな情愛をも醸しだす。二人は一切言葉を発しない。寓話的なストーリー構成を二人の表情の揺れ動きだけで見事なまでに雄弁に語らせる。

 とりわけ、少女役のハン・ヨルムが目を引く。清楚なあどけなさに、柔らかそうな肌の白さ。「サマリア」で見せていた彼女の穏やかな笑顔は印象に残っていたが、この「弓」でも、老人に守られているという余裕のある笑み、弓を構えた時の凛々しい笑み、男を挑発する時のコケティッシュな笑み、一つ一つのシーンに応じて表情を演じ分けているのが素晴らしい。この映画全編を通して卑猥さを全く感じさせない清潔なエロティシズムが漂っているのは彼女の存在感のおかげだ。

 キム・ギドクの映画には時折グロテスクな演出も目立つが、それもひっくるめて緊張感がピンと張りつめた美しさが魅力的である。私が初めて観たのは「魚と寝る女」、その頃はミニシアターのレイトショーでのみ上映される程度にマイナーで、グロテスクで痛々しい映像が私にはちょっときついという印象が強かった。その後、「サマリア」「うつせみ」と続けて観てキム・ギドク映画のファンになった(こちらを参照のこと)。とりわけ「サマリア」は好きな映画だ。援助交際少女の話、なんて言うと怪訝な顔をされそうだが、彼女たちの心象風景の切なさを映し出す映像が実に美しくて、その映像そのものに気持ちが強くひかれた。「春夏秋冬そして春」は「弓」と同様に寓話性の濃厚な映画だが、これについてはこちらに書いたことがある。

【データ】
監督:キム・ギドク
2005年/90分/韓国
(DVDにて)

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