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2009年1月 3日 (土)

台北探訪記(3)

(承前)

 二・二八紀念館を出て、その足で中正紀念堂に行った(写真23)。蒋介石を追悼する施設である。陳水扁政権時代の正名運動で蒋介石にまつわるものを否定する動きの中、この大門に掛けられていた「大中至正」(蒋介石の号である中正に由来)という扁額は「自由廣場」に替えられ、また、奥の蒋介石の銅像の置かれている堂宇の扁額も「中正紀念堂」から「台湾民主紀念館」に替えられた(写真26)。ただし、法的には現在も中正紀念堂のままらしい。

 門前に、青テントの抗議デモ(写真24)。民進党系の人々か。馬英九はデモ妨害を謝罪せよ、という趣旨のプラカードがあった。奥の方にはダライ・ラマの肖像画も見える。

 中正紀念堂に入った(写真25)。昨年(2008年)の正月に来た時には、ちょうど台湾民主紀念館として開館したばかりだった(→前回の記事はこちら)。堂内には現代アーチストの演出で凧が舞っていた。蒋介石の銅像を取り囲むように人権弾圧の歴史を示すパネルが並べられて、蒋介石という主役はそのままに、彼の評価をプラスからマイナスへと正反対に逆転させていた。今回は、そういったものは何もない。銅像の前に立入禁止のロープが張られているだけだ(写真27、28)。両脇に小壇が置かれている。近いうちに、儀仗兵を復活させるつもりなのだろうか。1階には蒋介石関連の展示があり、これは以前もそのままだった。去年来た時にはもう半分のスペースで「人権之道」という特集展示が行なわれていたが、この日は書画の展示会となっていた。蒋介石のマイナス面を示すものは一切撤去されており、民進党から国民党へ政権が戻ったことを実感させる。

 中正紀念堂を出る。東門市場をくぐり抜けて、仁愛路に行き、ここを東に進む。戦前、私の祖母が住んでいたという辺りを歩くのが次の目的だ。かつては東門町と言って、日本人住宅街が広がっていたらしい。一応、番地は聞いてあったので、戦前の地図と現在の地図とを照らし合わせ、この辺だろうとだいたいの見当をつけた路地を歩いた。道のうねり方からすると間違っていないとは思うのだが、当時の面影は全く感じられない。5階建て以上の高層共同住宅の並ぶ、普通に現代台北の住宅街である。少し離れた所に一軒の日本家屋が残っていたので(写真29)、こんな感じの家に暮らしていたのだろうと想像をめぐらす。

 さらに北へ歩き、光華商場へ行く。台北の“アキバ”と言われる電脳街である。かつては雑然とした小店舗が密集していたらしいが、最近建てられたモダンなビルに集約されたようだ。6階建ての中にパソコン関連機器、ソフト、マンガを中心とした古書店が並んでいるが、期待していたほど“濃い”雰囲気はなかった。客層も老若男女様々、普通に電器製品を買いに来ているという感じで、オタクっぽいのは目立たなかった。こっち方面に私は不案内なので、値段的な相場も分からない。メイドのコスプレした女の子がチラシを配っていた。メイド喫茶か?

 忠孝新生站でMRTに乗り、東の終着駅・南港まで行く。私の祖母は女学校を出てすぐの頃、ここの公学校(台湾人向けの小学校)で教員をしていた。ただし、性に合わなかったらしく、一年でやめてしまったそうだが。当時は農村だったという。現在でも一応台北市とはなっているが、埃っぽくて賑わいはない。しかし、台湾高速鉄道(新幹線)の駅を建設中で、それを当て込んでか、くすんだ商店街の向こうに大企業の近代的な巨大ビルがそびえているのが見える。東京で言うと多摩の雰囲気だ。国民小学校の前まで行ったが、当然ながら戦前の雰囲気を感じさせるものはない。

 再びMRTに乗って台北中心部に戻る。市政府站で下車。この辺り信義区は台北の副都心、東京で言うと新宿といったところか。お目当ては誠品書店信義旗艦店である。前回来た時から私のお気に入り(→こちらを参照のこと)。もう夕方の5時過ぎ。ずっと歩きづめで、朝から何も食べていない。腹へった。地下2階がカフェテリア式のちょっとした食堂になっているので、そこまで降りた。魯肉飯、排骨肉、葉ものの炒め物、魚丸湯のセットを注文。魯肉飯は好き。付け合せにタクアンがのっていた。排骨肉はシナモン風味で私の口に合わず、残した。

 誠品書店信義店は台湾第一の売場面積を誇る。日本のジュンク堂書店をもっとシックにファッショナブルにした感じ。大きいし、店内はきれいだし、当たり前だが日本では見られない本がたくさんあるし、何だか嬉しくなってくる。ぶらぶらひやかしているだけで、あっという間に2時間、3時間と過ぎてしまう。中国語は苦手なくせに、台湾史関連の本を中心に、ついつい色々と買い込んでしまった。王力雄『我的西域、你的東土』(大塊文化、2007年)という本が積んであり、ウイグル関連で噂は知っていたのでこれも買っておいた。カラー写真入りできれいな本だ。いつ読み終わるのかは分かりませんが。

 台湾の書店で目立つのは座り読みが当たり前のこと。最近は日本でも椅子を用意している書店が増えてきたが、誠品書店では当然のごとく机まで置いてある。本を開いて椅子に座っている女の子のページが進まないなあと思っていたら(ちょっとかわいかったので見ていた)、寝ていた。男子学生が漢娜・鄂蘭(ハンナ・アレント)『責任與判断』をエクスキューズのように脇に置きながら、机に突っ伏してこいつも寝とった。まるで図書館だ。

 CD売場に行った。江文也のCDでもあればと思ってクラシック・コーナーを探したが、なかった。日本からの輸入盤が多く、ポリドールやロンドンといったレーベルの半分は中国語、半分は日本語という割合。ナクソスも日本語で一棚そろっていた。

 誠品書店の日本語書籍コーナーはアート、デザイン、ファッションが中心で若者向き。たとえば平台の目立つところに奈良美智の画集や蒼井優の写真集が置いてあるという感じで、一般書は奥の方に申し訳程度に置いてあるくらい。この後、微風広場の紀伊国屋書店にも行ったのだが、こちらでは明らかに日本語世代のおじいちゃんが虫眼鏡を使って何やら一生懸命に立ち読みしている姿を見かけた。誠品書店の日本語書籍コーナーはこういうおじいちゃまたちには入りづらい雰囲気だ。

 MRTに乗って台北站で下車。地下街をぶらぶら歩きながら宿舎へと向かう。コーヒーパンの芳しい香りが漂ってきて、見ると行列している。私もつられて一個買った。中にバターがしっかり練り込まれていて、そのこってり感とコーヒー風味のほろ苦さがうまく絡み合い、なかなかうまかった。台湾の菓子パンはどれもこってり感が強くて、ものによっては口に合わないこともあるが、このコーヒーパンは良い。ご満悦でさらにてくてく歩いていたら、今度は臭豆腐のにおいが充満してきた。ふひゃっ。

(続く)

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