« 2008年5月18日 - 2008年5月24日 | トップページ | 2008年6月1日 - 2008年6月7日 »

2008年5月25日 - 2008年5月31日

2008年5月27日 (火)

「マンデラの名もなき看守」

「マンデラの名もなき看守」

 陸地から隔絶した監獄・ロベン島に赴任した看守のジェームズ・グレゴリー(ジョゼフ・ファインズ)。家計は貧しく、妻からは早く昇進するようせがまれている。赴任早々、特務機関の少佐から呼び出された。コーサ語ができるのを見込まれ、ネルソン・マンデラ(デニス・ヘイスバート)担当の検閲官に抜擢されたのだ。最初は他の白人と同様に強硬な人種差別主義者だったグレゴリーだが、マンデラの人柄に触れるうち、徐々に考え方が変わっていく。

 休暇に家族でケープタウンの街に行っても、物々しい警察車輌が走り回り、白人警官が黒人を警棒で容赦なく殴りつける有り様には、ほとんど戒厳令下と言ってもいいくらいにキナ臭い緊張感が漂っていた。アパルトヘイトも末期症状。マンデラを殺すことで南アフリカ全体が暴動の渦に巻き込まれてしまうのを恐れた政府は、彼の隔離・懐柔に腐心していた。

 グレゴリーの、白人社会の中で“クロびいき”となじられる孤独感、そして自分が特務機関に伝えた情報によってマンデラの息子が殺されてしまったのではないかという後悔。他方、何があっても動じないマンデラの毅然とした態度。二人の姿を抑え気味のタッチで描き出しており、それがかえって静かに胸をうつ。

 原題“Goodbye Bafana”のBafanaとは、グレゴリーがまだ差別意識を植え込まれていなかった幼い頃に一緒に遊んでいた黒人少年の名前。白人の大人たちが「黒人はみんなテロリスト」と当たり前のように言い放つ一方で、黒人が殴られるのを見たグレゴリーの娘が悲しそうにおびえる姿には、人種差別意識は刷り込みで構築されたものに過ぎないという主張が込められているのだろう。

 アパルトヘイト後の南アフリカは、これまで対立しあってきた人種間の憎悪をいかに和解させるかというテーマに直面している。この映画で描かれた二人の交流はそのうまくいったケースを示していると言えるが、実際にはプラス面でもマイナス面でも複雑な要因が絡まりあっているようだ(阿部利洋『真実委員会という選択──紛争後社会の再生のために』岩波書店、2008年を参照)。

 なお、些細なことだが、劇場で買ったプログラムに社民党の福島瑞穂が寄稿して、マンデラ及びANC(アフリカ民族会議)の気高さの例として核兵器を廃絶したことを挙げているが、事実関係の認識が間違っている。確かに南アフリカは一度核兵器を保有したにもかかわらず廃棄をした唯一の例であるが、それは白人政権の時代に実行された。アパルトヘイト政策による国際的孤立感、周辺黒人国家との紛争可能性に極端なまでに敏感になっていた南アフリカ政府は秘かに核兵器を開発・保有していたが、アパルトヘイト廃止が決定され(1991年)、黒人政権の誕生がほぼ間違いない情勢となっていた1993年に核兵器を廃棄した(マンデラの大統領当選は1994年)。理由は、ANCと関係のあったリビアなどへの核拡散の懸念があったこと、そしておそらくは黒人なんかに核は渡せないという人種差別的な感情。

【データ】
原題:Goodbye Bafana
監督:ビレ・アウグスト
2007年/フランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・南アフリカ/117分
(2008年5月25日、シネカノン有楽町1丁目にて)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年5月26日 (月)

Don Cheadle and John Prendergast, Not on Our Watch: The Mission to End Genocide in Darfur and Beyond

Don Cheadle and John Prendergast, Not on Our Watch: The Mission to End Genocide in Darfur and Beyond, New York: Hyperion, 2007

 スーダンのダルフール問題について日本語の手頃な本が見当たらなかったので本書を手に取った。タイトルは、我々の見えないところで起こっている出来事、という意味合いになるだろうか。映画「ホテル・ルワンダ」で主演を務めたのをきっかけにアフリカの問題に開眼した俳優ドン・チードルと人道問題で活動を続けるジョン・プレンダーガストの共著。スーダンをはじめアフリカの紛争についての解説、実際に難民キャンプを歩き、見て、話を聞いた写真つきのルポルタージュ、そして我々は何をすべきなのかという具体的な提言がまとめられている。ホロコーストを生き残ったノーベル賞作家エリ・ヴィーゼルや、現在、民主党の大統領候補になりそうな情勢のバラク・オバマなどが序文を寄せている。

 現在イスラム国家と宣言している国は世界に二つある。イランとスーダンである(ただし、前者はシーア派、後者はスンナ派)。スーダンはもともとイギリス・エジプトの共同統治という形をとっていたが、1956年に独立。それ以来、イスラム教徒が多い北部とキリスト教や精霊信仰の黒人が多い南部との対立が続く。1969年にヌメイリ将軍がクーデターをおこしたが、人気がなかった。国内的な支持を得るためにムスリム同砲団などイスラム過激派を政権内部に取り込み、とりわけイスラム法学者ハッサン・アル・トゥラービーが法務大臣となり、アラビア語公用語化、イスラム法の施行などイスラム化政策を進める。南部との武力紛争が泥沼化したため、いったん停戦合意がかわされたが、1989年に全国イスラム戦線(NIF)のバックアップを受けたバシール将軍が政権を奪取、イスラム化政策は継続中。一時期、オサマ・ビン=ラディンもスーダンにかくまわれていたが、アメリカの圧力を受けて追放、彼はアフガニスタンに逃れた。

 スーダン情勢をさらに複雑にしているのが、西部のダルフール紛争である。ダルフールとは、アラビア語でフール族の土地という意味。この地に住むフール族、ザガワ族、マサレイト族もムスリムだが、アラブ人ではない。北部と南部の対立はムスリム・非ムスリムの対立と言えるが、ダルフールでは同じムスリムでも、アラブ系が非アラブ系を虐殺するという構図を取っている。おそらく遊牧民なのだろうが、ジャンジャウィードというアラブ系民兵組織に政府は武器を供給、彼らは非アラブ系部族の村を焼き討ちし、レイプや殺戮を恣にしている。飢餓も戦略的な手段として使われ、数万人単位で殺され、また隣国チャドに難民として逃れている。

 具体的な提言としては、まず三つのPを挙げる。つまり、Protect→虐殺を止めさせるために軍事介入も含めたあらゆる手段を取ること。Punishment→虐殺の実行者を国際裁判にかけること。Promote Peace-keeping→平和な状態が維持されるよう促すこと。これらを実行できるのは国際社会、とりわけアメリカは主たる役割を果すパワーを持っているので、アメリカ政府を動かすために市民的な活動を展開するよう本書は呼びかける。具体的には、Raise Awareness→どんな問題が起こっているのかみんなに知ってもらう。Raise Funds→出来る範囲でお金を出し合う。Write a Letter→社会的に影響力のある人に手紙を書く。Call for Divestment→問題のある国と利害関係を持つ企業から投資を引き上げる。Join an Organization→NGOに加わる。Lobby the Government→政府に働きかける。

 北京オリンピックの聖火リレーでは中国政府に対する抗議のデモが世界各地で行われた。もちろんチベット問題が一番の理由だが、ヨーロッパではダルフール問題で中国に抗議する声も大きかった。スーダン政府が南部・西部に対して圧迫を強めている背景には石油利権を独占しようという意図がある。中国はその急速な経済発展につれて、資源確保のためアフリカ外交を積極的に展開しているが、それが結果としてアフリカ各国の独裁政権の延命に手を貸すことになっている(→ポール・コリアー『最底辺の10億人』の記事を参照のこと)。国連安全保障理事会でスーダンに対する制裁決議を通そうにも、中国が拒否権をちらつかせるので何も出来ないままだ。

 本書にはバラク・オバマが序文を寄せているほか、オバマ陣営の外交政策アドバイザーになったハーバード大学のサマンサ・パワー(ただし、ヒラリーを悪魔呼ばわりしたことが批判を受けて選挙スタッフからはずれた)についても本書ではたびたび言及される。もしオバマが大統領に当選したら、アメリカ政府がアフリカ問題に積極的に介入する可能性も出てきそうだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年5月25日 (日)

「隠し砦の三悪人 The Last Princess」

「隠し砦の三悪人 The Last Princess」

 時は戦国の世、貪欲で無慈悲な山名家によって秋月家は滅ぼされた。侍たちは城内に隠されているはずの軍資金を探し回るが、瘴気を掘り当ててしまい、秋月城は大爆発。命からがら逃げ出した金鉱掘りの武蔵(松本潤)と石つぶての得意な新八(宮川大輔)は偶然に金を見つけるが、大柄な侍・六平太(阿部寛)に取り上げられてしまった。二人は分け前はやるから国境まで案内しろと命じられる。同行するのは七平太と名乗る若侍。実は、秋月家再興のため脱出を図る姫君・雪姫(長澤まさみ)の身をやつした姿であった。

 オリジナルは、黒澤明映画の中でも知名度はあまり高くないかもしれない。千秋実と藤原釜足のデコボコ・コンビが、「スター・ウォーズ」シリーズのR2D2とC3POのモデルになったことはよく知られている。この二人の飄々としたおかしみはなかなか良い味わいを出していたが、新版ではデコボコ・コンビの片方・武蔵と雪姫の間に淡い感情が芽生えるという展開になる。オリジナル版の雪姫を演じた上原美佐(この人、他の映画では見かけない)の毅然とした凛々しさが私には非常に印象深かったのだが、長澤まさみも悪くない。セットは大がかりで凝っているし、時代もの活劇としてなかなか面白かった。

 黒澤没後10年にあたるからか、黒澤映画のリメイクが続いている。織田裕二の主演で「椿三十郎」もリメイクされたが見そびれてしまった。去年はテレビで「天国と地獄」「生きる」もリメイクされた。その翌日だったか、会社でおばさん二人が「松本幸四郎はちょっと違うわよね。「生きる」で主演やってた人、あれ、誰だったかしら…?」と思い出せずに悶々としていたので、私がすかさず「志村喬じゃありませんか」と言うと、「どうしてあなたが知ってるのよ!? まだ生まれてなかったでしょ?」。まあ、確かにまだ生まれてませんでしたが、志村喬は好きな俳優だし、何よりも私があらゆる映画の中で一番好きなのは黒澤の「生きる」なのです。

【データ】
監督:樋口真嗣
オリジナル脚本:黒澤明・小國英雄・橋本忍・菊島隆三
脚色:中島かずき
出演:松本潤、長澤まさみ、阿部寛、宮川大輔、椎名桔平、國村隼、他
2008年/118分
(2008年5月24日、有楽町、日劇PLEXにて)

| | コメント (0) | トラックバック (1)

« 2008年5月18日 - 2008年5月24日 | トップページ | 2008年6月1日 - 2008年6月7日 »