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2008年12月18日 (木)

マイケル・イグナティエフがカナダ自由党党首になったらしい

 マイケル・イグナティエフがカナダの野党・自由党の党首に決まったそうだ。辞任したディラン党首は他の野党・新民主党やケベック連合と共に少数与党の保守党・ハーパー政権に対して不信任案を出すつもりだったようだが、イグナティエフは消極的らしい。前回の選挙で敗北した痛手を立て直す必要があるし、そもそも経済運営が難しい現在、敢えて火中の栗を拾うわけにもいかないのだろう。

 イグナティエフは人権問題の専門家として知られる。もともとジャーナリストとして出発、世界の紛争の現場に立った経験をもとに彼の著わした『軽い帝国──ボスニア・コソボ・アフガニスタンにおける国家建設』(中山俊宏訳、風行社、2003年)は以前にこのブログでも取り上げたことがある(→こちらを参照のこと)。現実問題として、ジェノサイド等の残虐行為を抑止するためには軍事力が必要な事態が考えられるし、また戦火で混乱した社会を再建するには外部の力を借りねばならないこともある。そのためにアメリカの覇権も場合によっては助けとなる。イラク戦争に際して彼は人道目的の武力介入という観点からブッシュ政権を支持、リベラル派からは批判を受けた。ただし、それはあくまでも人道目的であって、国益目的の保守派とは全く異なる。こうした彼のスタンスはリベラル・ホーク(リベラルなタカ派)と呼ばれた。

 たしか自由党政権時代のクレティエン首相はイラク戦争への参加を拒んだはずだが、イグナティエフはその点でどのように受け入れられたんだろう?

 戦後日本において“非武装中立”という夢物語で自衛隊の存在すら否定してきたいわゆる進歩派、彼らの主張には国境外の悲惨事については無視するという独善的な逆説がはらまれていた。それにもかかわらず、“平和”“人権”という言葉を使えばもっともらしいが、実はこれらの“正しい”言葉への呪術的信仰は、彼らの知的欺瞞を糊塗する道具に使われていたに過ぎなかった。私自身は必ずしもイラク戦争を是認するわけではない。ただし、結論への賛否はともかく、理想主義と現実主義との架橋しがたい矛盾を直視して、その矛盾そのものの中から考えていこうという点では、イグナティエフのようなリベラル・ホークの方がよほど誠実だと思っている。

 そういえば、ロメオ・ダレールも自由党の上院議員を務めているはずだ。国連平和維持軍司令官としてルワンダに赴任し、あの大虐殺を目の当たりにしながら何も出来なかった後悔から現在は人道問題に取り組んでいる。彼の著わしたShake Hands with the Devil: The Failure of Humanity in Rwanda(悪魔との握手:ルワンダにおける人道の失敗、Carroll &Graf Publishers, 2005)も以前に取り上げたことがあるが(→こちらを参照のこと)、人道問題や国際貢献というテーマを考える上で必読だと私は思っている。残念ながら邦訳はまだない。以前、エージェンシーに確認したら、どこかの出版社が翻訳権を取得しているらしいんだけどね。ダレールと伊勢﨑賢治の対談『戦禍なき時代を築く』(NHK出版、2007年)という本があるので(これも以前に取り上げたことがあります→こちら)、ダレールの発言を知りたい場合にはとりあえずこの本をどうぞ。

 カナダはPKO活動に積極的な国として知られている。日本の自衛隊のPKO派遣についてすぐ軍国主義云々という議論が沸き起こるが、まったくアホらしい。日本の大国志向なんて捉え方はただの妄想に過ぎない。むしろアメリカのような大国が見落としがちなところで、カナダと同様のミドルパワーとして国際貢献できることがあるはずだという点でダレールと伊勢﨑の見解は一致しているし、また、これが外交路線として現実的であることについては添谷芳秀『日本の「ミドルパワー」外交──戦後日本の選択と構想』(ちくま新書、2005年)が論じている(→こちらを参照のこと)。

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