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2008年12月23日 (火)

楊蓮生『診療秘話五十年 一台湾医の昭和史』

楊蓮生『診療秘話五十年 一台湾医の昭和史』(中央公論社、1997年)

 著者は日本統治期に生まれ、台湾では耳鼻咽喉科の権威となったお医者さん。大谷渡『台湾と日本』(東方出版、2008年)にも中学校で屋良朝苗に教わった人が複数出てきたが、屋良の教え方は厳しいが工夫がこらされており、進学率は抜群であったという。著者も屋良によって発奮した一人。脱線になるが、台湾には沖縄出身者が割合とたくさん来ている。『文芸台湾』の同人にも沖縄姓の人が目立ったし、そういえばノンフィクション作家の与那原恵さんのおじいさんも医師として台北で開業していた(与那原恵『美麗島まで』文藝春秋、2002年)。

 台北帝国大学付属医学専門部に入学したところ、女生徒が一人いた。汪精衛政権派遣の留学生で、康有為の孫娘・康保敏という人だったという。在学中に日本は敗戦、中途半端な時期だったが頼み込んで何とか台北帝国大学の卒業証書を繰り上げてもらったらしい。ポツダム少尉ならぬ“ポツダム証書”。国民党軍の台北入城行進を見て、そのあまりのみすぼらしさに幻滅してしまったとも語る。私の祖母もこの行進をじかに見ていて、著者と同様の感想を述べていた。

 国府接収後はただちに日本語が全面的に禁止されたため、北京語習得に苦労したらしい。しかし、医師は実力さえあればいいわけで、著者は英語・日本語文献を通して積極的に最先端の知識を摂取、宋美齢をはじめ国民党政権の要人から信頼された。ただし、著者自身は国民党をあまり快く思っていなかったようだが。

 専門は耳鼻科なのに、なぜか“産婦人科”がらみの話が多いのも著者の人徳?か。ちょっとした艶笑譚といったエピソードを淡々と、しかしユーモラスな語り口で披露するところが意外と面白かった。

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