若林正丈『台湾の政治──中華民国台湾化の戦後史』
若林正丈『台湾の政治──中華民国台湾化の戦後史』(東京大学出版会、2008年)
本年度アジア・太平洋賞大賞受賞作。書店に並び始めた時点で買い求めてはいたのだが、なにぶん分厚い本なので断続的に読みつぎ、時間がかかってしまった。著者には『台湾──変容し躊躇するアイデンティティ』(ちくま新書、2001年)や『蒋経国と李登輝──「大陸国家」からの離陸?』(岩波書店、1997年)など一般向けの著作もあるが、これらで示された論点も網羅し、“中華民国台湾化”というキーワードを軸に戦後台湾を動かしてきた政治力学を詳細に分析。台湾ナショナリズム・中国ナショナリズムそれぞれの質的変容をたどりながら、原住民族や客家なども含めた多文化主義の進展を捉え返していく。
台湾はおおむね親日的とされる。その通りではあるのだが、それを日本による植民地時代への郷愁と結びつけて語ってしまうと妙な具合になってくる。清→日本→アメリカという“帝国”において周縁化されてきた国際関係的位置。省籍矛盾→族群政治→多文化主義という国内的政治力学。こうした現在進行形の台湾独得な政治的コンテクストの中でいわゆる親日的なものも現われているわけだが、台湾への親近感を語る日本人でもこうした背景を理解していない人が意外と多いように思う。いわゆる親日感情には、国民党支配へのアンチとして国民党以前への高評価がシーソーのように傾いた点が無視できないし、他方で、台湾における抗日運動評価にも、国民党による押し付けイデオロギーに対して本省人の主体性を強調する立場からの異議申し立てという側面があった。
いずれにせよ、この小さな島国には、国内的にも国際関係的にも複雑な政治力学が幾重にも絡まりあっており、一面的な理解を許さない。私などはそうした複雑さに一つのドラマを見出して興味が尽きないのだが。本書は浩瀚かつ緻密な研究書ではあるが、だからこそ、現代台湾について基本的な見取り図を身につけるには、まず本書を一読するのがむしろ近道であろう。
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