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2008年11月 9日 (日)

大谷渡『台湾と日本──激動の時代を生きた人びと』

大谷渡『台湾と日本──激動の時代を生きた人びと』(東方出版、2008年)

 日本統治時代に青春期を過ごした世代の台湾の人々からの聞き書きをもとに当時の時代を描く。著者には戦前の女性ジャーナリスト北村兼子の評伝があるが(私は未読)、彼女が台湾民族運動穏健派の指導者・林献堂を訪れた経緯を調査するために台湾へ行き、当時を知る人々から話を聞いたことが本書のきっかけになっている。

 取材相手は男女を問わず医師が多い。医師もしくは弁護士など技術的な分野に台湾人の人材を限定しようとした日本の植民地政策が反映されている。台湾社会の中でも裕福で恵まれた階層の人々がほとんどで、年代的に学校生活での話題が多い。

 日本人教師には熱意があって公平な人も多かったようだし(中学校で物理・化学を教えていた屋良朝苗の名前を挙げる人が複数いた)、日本人が自分たちに教育を授けてくれたことには感謝していると一様に語られる。だが同時に、みんな日本人による差別で悔しい思いをしたとも語っており、耳が痛い。台湾人生徒がトップの成績をとっても、成績優秀者の表彰を受けさせないように成績を改竄して日本人を一番にするなんてことも行なわれ、悔しくて泣いた、などという話もある。

 特に台湾育ちの日本人に差別意識が強かったそうだ。その一方で、日本の学校に留学すると、遠いところからわざわざ、という感じに暖かく迎え入れてくれて、むしろ台湾を知らない人たちの中にいた方が差別を感じなかったというのが興味深い。これとパラレルな話だが、田村志津枝『台湾人と日本人──基隆中学「Fマン事件」』(晶文社、1996年→参照)で、台湾育ちの日本人が日本に行くと、台湾人がやっているような泥臭い仕事も日本人がやっているのを見て驚いた、という話が紹介されていたのを思い出した。

 なお、この世代への聞き書きとしては平野久美子『トオサンの桜──散りゆく台湾の中の日本』(小学館、2007年→参照)も面白かった。

 この世代のご老人たちはもはや“絶滅危惧種”なわけで、もっと色々な肉声を聞き取るのは今をおいて時期はないように思う。

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