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2008年11月12日 (水)

『憤れる白い鳩 二〇世紀台湾を生きて──六人の女性のオーラルヒストリー』

 陳水扁が逮捕されましたが、そのことはまた機会を改めて。

周芬伶・編著(藤目ゆき・監修、馮守娥・監訳)『憤れる白い鳩 二〇世紀台湾を生きて──六人の女性のオーラルヒストリー』(明石書店、2008年)

 六人の女性からの聞き取りをもとに、戦後の台湾を女性史という観点から語らせていく。

 元“皇民作家”で戦後も作家として書き続けた龍瑛宗の妻・李耐、彼女の気の強さは学者肌の夫を悩ませ、息子夫婦とも折り合いがつかない。どうでもいいけど、ソクラテスは悪妻がいたからぐれて哲学に走ったのか、それともソクラテスが変な奴だったからクサンチッペは悪妻になったのか、という卵が先か鶏が先かみたいなことを土屋賢二が書いていたのを思い出した。あまり関係ないけどね。

 本書の監訳者ともなっている馮守娥は二二八事件後の白色テロで連行され、政治犯を収容したことで悪名高い火焼島(緑島)へ送られた経験を持つ。もう一人、労働運動で検挙された許金玉にしてもそうだが、出獄後も警察に付きまとわれるため職がなく、それでも懸命に生きてきたことを語る。

 黄家瑞は対照的に、上海の豊かな名家の生まれ。張愛玲のいとこにあたる彼女の語りには、ヴィスコンティの映画を思わせるような黄昏た頽廃感もどことなく漂う。

 伊蘇はブヌン族の巫女。少数民族の保護という問題意識や、彼女の語りから言葉を超えた精神性を感じ取ろうとするかのような書き方は、ネイティヴ・アメリカンとその調査をする白人の文化人類学者というのと同じ構図だな。

 楊秀卿は台湾の伝統歌謡・念歌をなりわいとする盲目の女性。今ではラジオ番組の人気者となっているらしいが、不遇だった頃の放浪生活を回想する。採録されている話は切り詰められていて短いのだが、韓国のパンソリ唄いの親子を描いたイム・グォンテク監督「西便制──風の丘を越えて」のイメージと二重映しになって、この人が私には一番印象的だった。

 語り手の配置には台湾社会の多元的なありようが見えるように配慮されている。女性の生活レベルから見た台湾戦後史として興味深い。注のつけ方や監修者のあとがきをみると、訳者グループには中台統一派の色合いが濃い(日本の進歩的・体制批判的な知識人には、こと中国問題になると、“中国”の不可分一体性という言説に疑いを持たない人が多いのが本当に不思議)。そのあたりは割り引いて読む方がいいでしょう。

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