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2008年10月 4日 (土)

髙山文彦『孤児たちの城──ジョセフィン・ベーカーと囚われた13人』

髙山文彦『孤児たちの城──ジョセフィン・ベーカーと囚われた13人』(新潮社、2008年)

 ジョセフィン・ベーカーといえば私にもそのイメージはすぐ思い浮かぶ。中学生のころ、『二十世紀全記録』という写真をふんだんに使った歴史図鑑が好きでよく眺めていたのだが、エキゾチックな顔立ちで乳房もあらわに踊っている彼女の姿が、まだウブだった私の目に強く焼きついていた。アメリカで混血児として生まれた彼女はパリでレビューの舞台に立ち、大成功をおさめる。第二次世界大戦ではレジスタンスに協力、戦後は人種差別撤廃運動に尽力。そして、フランスのある古城に世界中から孤児を集め、人種や宗教の別を超える理想王国を目指した──。

 同性愛、母子相姦、ひょっとしたら獣姦すらうかがえるようなジョセフィンの狂気。生い立ちに由来するのか、言い知れぬ憤怒。理想の裏にひそむどす黒さを見つめていくあたりはいかにも最近の『新潮45』好みだが(本書は同誌での連載をまとめたもの)、そうした彼女の狂気に翻弄された子供たちのその後をたずね歩く著者の筆致には真摯なものが感じられる。

 横浜で捨てられた日本人孤児のその後をたずねていくのがメイン・ストーリー。肌の浅黒さ、朝鮮戦争の最中という時代背景を考えると、黒人兵との混血児だったのだろう。澤田美喜のエリザベス・サンダースホーム経由でジョセフィンのもとに預けられた彼に、それ以前の記憶はない。出生も、人種や国籍も、ある意味で作られた記憶。虚構であってもそこに血肉の混じった記憶。アイデンティティーの埋めがたい揺らぎ。拾ってくれた煙草屋さん一家の親切のことを著者から初めて知らされて彼が動揺するところが印象的だった。

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