木村幹『韓国現代史──大統領たちの栄光と蹉跌』
木村幹『韓国現代史──大統領たちの栄光と蹉跌』(中公新書、2008年)
本書は、韓国歴代大統領10人のうち、李承晩、尹潽善、朴正煕、金泳三、金大中、盧武鉉、李明博という7人のキーパーソンに焦点をしぼり、彼らの同時代体験に適宜目配りしながら戦後の韓国政治史を描き出していく。著者の前著『民主化の韓国政治──朴正熙と野党政治家たち 1961~1979』(名古屋大学出版会、2008年→記事参照)では世代によって政治家として活用できるリソースが大きく異なっていたことが分析されていたが、本書はそうした世代の移り変わりを意識した人物中心のストーリー立てとなっているので興味深く読める。『自民党戦国史』なんてたとえに出すと古臭いかもしれないが、理念的な分析ではなく、人的な離合集散からうかがえる政治力学の分析に専念しているので、政治史として説得力を持つ。
韓国の政治史においては権威主義体制から民主化への移行が比較的スムーズに進んだ点が大きな特徴であると言えよう。理由としては、第一に、軍事政権側が先手を打って民主化宣言を出したこと。第二に、野党側の分裂(具体的には、金大中と金泳三)により慮泰愚が当選したため、光州事件に関わった一部の勢力が排除された他は温存されたこと。第三に、金大中追い落としのため、金泳三が軍部系の流れを汲む勢力と共に民主自由党を結成するというウルトラCをやってのけたこと。政党政治家として老練な金泳三は民自党内で軍部系の政治家たちを軽く手玉にとって主導権を確保する。つまり、金泳三というトリックスターの権力欲が、図らずも権威主義体制の軟着陸を成功させたとも言えるわけで、これも歴史の狡知と言うべきか。その後、金大中も旧KCIA長官だった金鍾泌と手を組むというやはりウルトラCでもって大統領に当選する。政治史というのは意外などんでん返しがつきもので、それがドラマとして面白い。
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