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2008年9月20日 (土)

ウイグル問題についてメモ③

 ウイグル問題関連で最近読んだ論考についてメモです。

 加々美光行『中国の民族問題──危機の本質』(岩波現代文庫、2008年)。『知られざる祈り──中国の民族問題』(新評論、1992年)の改訂版だが、大幅に書き換えられているようだ。ウイグル問題にも多くのページが割かれている。読みながらとったメモを箇条書きすると、
・二十世紀初頭、梁啓超が「中国民族」「中華民族」概念を提唱、これを受けて孫文も「中華民族」形成を主張→「中華=中国世界=天下」観念と近代的「国民国家」観念が重ねあわされる→他民族の「漢人化」
・漢人以外の民族の離脱は、「中国国家」からの離脱というよりも、「天下=中国世界」からの離脱を意味し、漢人の世界を否定されたように受け止められる。
・イスラームもチベット仏教もそれぞれ普遍的な「世界」観念を持つ。また政教合一の傾向→中国政府は大量動員を恐れて政教分離を求める→内発的契機を欠いた強制的な政教分離には厳しい監督・干渉が伴う
・少数民族は居住区域での自治のみ許される(区域自治)→分離権なし(ソ連邦型とは異なる)→連邦制の主張は「分離主義者」として糾弾される
・1954年から、新疆生産建設兵団(屯田兵みたいなもの)→漢人の入植→摩擦
・百家争鳴・百花斉放→トルコ系民族幹部も民族自決権を含めた要求を出した→「地方民族主義」批判→再び漢人大量入植、遊牧民の定住化、人民公社化→トルコ系民族の相次ぐ反乱、ソ連領への越境逃亡
・中ソ対立、越境逃亡者の増大(→ソ連領カザフ共和国で自由トルキスタン運動)→中国政府は新疆への圧力を強化
・階級史観→「遅れた」地域に先進的プロレタリアートを派遣→実際には、「先進的な」漢人が「後進的な」他民族を「指導」という図式→民族的差異解消とは言いつつ同化圧力
・中国国内で、先進民族(漢人)と前近代的な少数民族という対比→実は、近代化論と同じ図式があるからこそ、少数民族の伝統が無視されている
・現在の中国ではもちろん階級史観などとらないが、国民市場的統合という形で同化圧力
・上海協力機構→「反テロリズム」という名目で周辺諸国と安保協力→東トルキスタン独立運動の「国際問題化」を防止

 『環』第34号(2008年夏、藤原書店)で「多民族国家中国の試練」の特集。チベット関連の議論が目立つ。

星野昌裕「国家統治システムの再検討を迫られる中国」から民族問題の論点をメモ。
・当初、毛沢東は「中華民主共和国連邦」も考えていたが、対外的安全保障優先のため連邦制の考えを放棄→民族区域自治制度(“民族自治”と、その区域内で漢族も含めた諸民族の平等を強調する“区域自治”のバランス)→実質的な権限は漢人→形骸化
・中国政府は、自国の民族問題を内外の民族運動が連携して国家統合に挑戦する意図を持つ「敵対矛盾」と認識
・少数民族も中華民族の一部であることを強調、漢語学習の強制

若林敬子「人口から見た多民族国家中国」からウイグル問題絡みの論点をメモ。
・旧ソ連圏での独立国家誕生→中国政府の懸念
・新疆には、開発・国境防衛の名目で大量の漢族移住(とりわけ北疆)、正規の人民解放軍の他にも「生産建設兵団」→実質的に漢族支配
・漢族とトルコ系民族との通婚はほとんど見られない
・イスラーム系民族にとって産児制限政策への反発が強い
・南疆の和田(ホータン)地区では、高出生率・高離婚率・初婚年齢の若年齢などの人口動態上の特徴が目立つ

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