金昌國『ボクらの京城師範附属第二国民学校──ある知日家の回想』
金昌國『ボクらの京城師範附属第二国民学校──ある知日家の回想』(朝日選書、2008年)
植民地支配、日本の敗戦、新国家として出発したばかりの混乱期、そして朝鮮戦争──こうした激変期を小学生・中学生として過ごした、その回想録。なんて言い方をすると何やらドラマチックに聞こえるかもしれない。しかし、子供の頃の素朴な眼差しをそのまま想い返しながらつづられていく筆致はとても穏やかだ。著者自身、その後、教員として教壇に立った経験から、反日、克日、そして現在の知日へと移り変わる世相の変遷についても感慨深さがうかがわれる。
日本の支配から解放されたばかりの頃、教員が不足していたため、日本留学経験者がいわゆる“でもしか”として多数採用されたらしいが、授業はだいぶ適当だったという。投げやりなところがかえってユーモラスでもあったが。彼らにはエリートとしての自覚があった。しかし、植民地支配から解放されたことは喜びつつも、自分がせっかく学んだ専門的技能を生かせるのか、この先どうなるか分からないという不安があったようだ。アメリカ人から直接英語を習った先生が「聞く・話す」重視だったのに対し、日本留学経験のある先生(著者の父も含む)が「読む・書く」重視だったという対比が面白い。朝鮮戦争で除隊したばかりの英語の先生は必死の形相で戦闘体験のことばかり話していて異様だったが、間もなく自殺してしまったという。今で言うとPTSDだったのだろう。
著者自身が教室で生徒たちに日帝時代の話をしたときのこと。具体的な話をしていくと、日本人の良い思い出にも触れることになる。反日教育世代の生徒たちは納得のいかないという表情を示したらしい。著者自身がかつて軍国少年として“鬼畜米英”と叩き込まれていた頃、母から一緒に働いたことのあるアメリカ人の優しさについて聞かされたとき、彼自身もそれが理解できなかった、その頃の私たちは実際のアメリカ人を知らなかった、と想い返すところが印象的だった。
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