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2008年8月24日 (日)

「この自由な世界で」

「この自由な世界で」

 ポーランドで人材派遣の面接を行なっているシーンから映画は始まる。人材派遣会社で働くアンジーはシングルマザーだが、子供は両親に預け、学歴はあってもコールセンターの仕事に甘んじているローズとルームシェアリングしている。ある日突然解雇されたアンジーはローズを説得して職業紹介の会社を立ち上げた。東欧からの移民労働者を工場に送り込む世話師のような仕事。子供と一緒に暮らすため生活を安定させたいと焦るアンジーは、不法移民の雇い入れに手を染めていく。

 市場原理、雇用の流動化という形でいわゆる新自由主義経済が進む中、働き方の多様性と言ってしまえば聞こえはいいが、社会的底辺に落ち込んでしまった人々が外国人労働者と職を奪い合うという状況がよく指摘される(これは往々にして排外主義に結びつきやすい)。この映画はロンドンの中でも第三世界を形成している移民たちの生活圏を舞台としている。生活を安定させようとなりふり構わず仕事を進めるアンジーが、彼女自身の意図とは別に、結果として移民たちを食い物にしてしまう姿に、そうした新自由主義経済のしわ寄せされている問題が描き込まれている。「この自由な世界で」(原題:It's a free world…)というタイトルには、人間の尊厳としての自由と、それを踏みにじりかねない自由経済という矛盾が二重写しにされている。

 同じくケン・ローチ監督の映画で不法移民というテーマとの関わりでいうと、「レディバード、レディバード」(1994年)も観たことがある。男をとっかえひっかえして他人の目には自堕落に見られてしまう女性が、南米からの亡命者と出会い、精神的に立ち直ろうとした矢先、社会福祉当局から保護者失格の宣告を受けて子供が取り上げられ、出会った男性も国外退去通告を受けてしまうというストーリー。せっかく立ち直ろうとしていたのに、不条理に見舞われてしまうやりきれなさが印象に残っている。

 ただ、ケン・ローチの映画は私にはちょっと肌が合わないという感じもしている。良心的な社会派映画を作り続けていることには敬意を持っているし、問題意識にも共感できる。ただ、図式がはっきりし過ぎて、余韻というか含蓄が感じられないというか。以前、知人から、ケン・ローチは良いよ、と薦められ、レンタルビデオ店で「大地と自由」(1995年)を借り出して観たのが私のケン・ローチ初体験。テーマはスペイン内戦。反ファッショ陣営の中でも内訌が生じて、純粋に自由を求めるアナキストたちが、スターリン主義的なコミュニストによってつぶされていく話。まあ、言いたいことは分かるんだけど、全体主義vs.自由みたいな政治図式がどうにも陳腐に感じられて退屈してしまった。くだんの知人に文句をつけたら、「バカ! 「大地と自由」は駄作だ。「ケス」を観ろ」と言われたのだが、まだ観ていない。最近、「麦の穂を揺らす風」(2006年)がカンヌで賞をとったが、アイルランド独立闘争がテーマとのことで、何となく「大地と自由」のにおいを感じて結局観に行かなかった。初体験の呪縛というのは恐いものです(苦笑)

 とは言っても、これはあくまでも私の感じ方の問題なので、ケン・ローチ作品を全否定するつもりはない。興味のある人は是非観に行けばいいと思う。

【データ】
原題:It's a free world…
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
2007年/イギリス・イタリア・ドイツ・スペイン合作/96分
(2008年8月23日、渋谷、シネアミューズにて)

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