松本仁一『アフリカ・レポート』『カラシニコフ』他
最近でもジンバブエのムガベ大統領による強権的な政治抑圧が世界中の注目を集めた。指導者の腐敗、絶え間ない内戦、経済効率の悪さ、そして捨て鉢になってしまう人々──。松本仁一『アフリカ・レポート──壊れる国、生きる人々』(岩波新書、2008年)やロバート・ゲスト(伊藤真訳)『アフリカ──苦悩する大陸』(東洋経済新報社、2008年→記事参照)は、ジャーナリストとして歩き回りながらアフリカ諸国の抱える問題をスケッチしている。
こんな言い方をすると語弊があるかもしれないが、国家という枠組みへの帰属意識や公共意識がないがために人々がバラバラになって収拾がつかなくなっている状況が見て取れる(私が単純にナショナリズムを礼賛しているわけではないことは上掲書を読めばわかる)。国民のためという自覚がないから政治指導者は平気で汚職に手を染めるし、国家への帰属意識よりも部族意識を優先させるため内戦が終わらないし(植民地支配によって不自然な国境線を引かれてしまったという問題がある)、遵法精神がなければ経済も治安も悪化するばかり。アフリカ各国の政治家たちは問題点を指摘されると「それはレイシズムだ、すべては白人が悪いんだ」と論点をすりかえて建設的なことは何もやらない。それでも、崩壊国家ソマリア(→ソマリア情勢の背景についてはこちらの記事①・②・③を参照のこと)内部で事実上の独立国家となっているソマリランド共和国が伝統的な部族長老たちの合議によって秩序が保たれているケースも紹介されており、決して希望がないわけではない。
アフリカの内戦では少年・少女たちが拉致されて兵隊に仕立て上げられてしまう問題が報告されている。弾除けに使われ、仮に生きて逃げることができたとしても、精神的に安定していない時期に残酷な体験をさせられてしまったことから難しいリハビリに直面している。なぜ年端のいかぬ少年少女でも兵隊になれるかといえば、カラシニコフ銃のおかげ。構造がシンプルでパーツの組み立てがラク、悪条件でも弾詰まりしない、それに安上がり。松本仁一『カラシニコフ』(Ⅰ・Ⅱ、朝日文庫、2008年)はカラシニコフ銃の世界的な流通に着目して、暴力に翻弄される人々の姿を報告してくれる。
なお、エレナ・ジョリー(山本知子訳)『カラシニコフ自伝──世界一有名な銃を創った男』(朝日新書、2008年)は、この銃を開発した男からの聞き書き。職人技としてこの銃を開発したことへの誇りが見えるだけでなく、彼自身、もともと富農の息子として共産主義体制においては不遇な生い立ちであったこと、ナチス・ドイツ軍を撃退するためにより簡便・高性能の銃を開発したいという熱意があったことなどが語られる。カラシニコフという悪名高い響きとは裏腹に、技術者としての彼が生真面目な老人であることのギャップが印象に残った。
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