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2008年8月29日 (金)

ル・コルビュジエ『伽藍が白かったとき』

ル・コルビュジエ(生田勉・樋口清訳)『伽藍が白かったとき』(岩波文庫、2007年)

 1935年、初めてアメリカを訪れたル・コルビュジエはニューヨークの摩天楼に生々しい矛盾と活力──“仙境的破局”を見出して驚嘆する。一方では、大規模な消費文化のただ中で人々の神経はすり減らされて疲れた顔が見られ、スラムの貧困も看過しがたい。他方で、加速度的に高まるカオスに疾風怒濤の精神的爆発をも感じ取っている。

 摩天楼を見たル・コルビュジエの第一声は「小さすぎる」。住宅事情・交通事情・健康的環境の悪さ、都市の抱える様々な矛盾に対して都市行政のまずさを指摘。摩天楼をもっと高く! そうすれば居住空間は格段に広がり、交通網や緑地を整備できる。集中的かつ簡潔に都市のあり方を根本から再編成せよと言う。機械文明とカオティックな活力、両方をあわせ持った若いアメリカならできると期待を寄せる。彼の理想とする都市プランの詳細は『輝く都市』(坂倉準三訳、鹿島出版会、1968年)にまとめられている。

 中世のカテドラル(伽藍)は今では煤けて観光名所として死んだ相貌を見せるだけだが、かつて建てられた当時には溌剌とした活力に満ちあふれていたはずだ。「伽藍が白かったとき…」というリフレインが文章全体にリズミカルな勢いを持たせている。

「伽藍が白かったとき、石工たちは魅力的であろうとは思わなかった。彼らは、緊張、危険、活力、根気、偉大な理想への忠誠の高揚する中で、最も品威ある聖堂を建て、さらに建てつつあった。…基本的なこと、測りえない未知のものと取組む男たちの厳しい運命は、彼らの心や手を、頑健な、実に悲劇的な感情へと向わせたのである。それは力強い時代、新しい時代であった。人々は世界を建設していた。そして、人々が野蛮で原始的であった以上に、その建築は大胆であり、知識と力と運動、増加、生成の支配の具体的なしるしであった。こうして至上権が、聳え立つ石と技術の力によって空に刻み込まれるのだ。一致した感情が企てを支え、人々は信じていた。…死ぬ前に、なにか生き生きとした変化するものに参加したい。私は魅力的であろうとは望まない、しかし強くありたい。私は凝り固まりたくない、保存したくない、行動したい、創造したい。」(本書、78~79ページ)

 都市生活の矛盾を解決しようというヒューマニスティックな動機と、芸術としての創造への意気込み、両者の結節点として都市計画の壮大な理想を繰り広げるところが魅力的だ。もっとも、後にル・コルビュジエ以降の大規模都市計画志向は都市の雑多性を押し殺してしまうと批判されることになるが。

 ル・コルビュジエの建築は、“白い箱”という形態、外壁ではなく柱がすべてを支える(従って、壁はあってもなくても構わない→自由自在なデザインが可能な)構造といった特徴が目立つ。それは、幾何学的な立体が大地から離れて宙に浮いているような印象すら受ける。全面ガラス張りも現代の我々にはすでに見慣れたものだ。技術的進歩を積極的に活用して過去の束縛から飛翔しようというイメージは、20世紀初頭、たとえば未来派などとも共通する精神的雰囲気も感じさせる。

 越後島研一『ル・コルビュジエを見る──20世紀最高の建築家、創造の軌跡』(中公新書、2007年)は、彼の作品一つ一つの持つ意味と魅力を語りつくす。とりわけ、ロンシャン教会堂が漂わせている聖性の理屈では説明しがたいオーラについての語り口には好感を持った。ル・コルビュジエには坂倉準三、前川國男、吉阪隆正などの直弟子がいたほか、丹下健三、磯崎新、安藤忠雄、伊東静雄をはじめ彼を意識している建築家は日本でも非常に多い。越後島研一『現代建築の冒険 「形」で考える──日本1930~2000』(中公新書、2003年)は日本の現代建築の流れをたどっているが、随所でル・コルビュジエとの対比に言及されるのが興味深い。

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