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2008年7月14日 (月)

毛里和子『周縁からの中国──民族問題と国家』

毛里和子『周縁からの中国──民族問題と国家』(東京大学出版会、1998年)

 もともと中華民国は領土不可分のナショナリズムをスローガンとしていた。中国共産党は一時期、ソ連の民族政策の影響を受けたこと、抗日戦争で少数民族の協力を取り付ける必要があったことなどから連邦制の構想も持っていたようだが、中華人民共和国の成立後は“区域自治”を基本方針とし、各民族の分離権を容認しかねない連邦制は否定した。自治権を認めつつも、領域的政治統合が目指された。

 現代中国には漢民族以外に五十五の少数民族がいるとされるが、国家主導の“民族識別工作”を通してこれらの少数民族が認知されてきた経緯を紹介、民族は上から作られたとする論点に興味を持った。民族平等が基本原則だが、モンゴル・ウイグル・チベットなど独自の文化・歴史を持つ民族も数千人レベルのエスニック・グループも、漢民族ではないという点で同列に扱われることになり、その意味では個別の事情は無視されている。“民族識別工作”で大きな役割を果した文化人類学者の費孝通は、非漢民族を民族として認知した上で、その上位概念として多元一体の有機体である“中華民族”を想定していたという。

 中国政府はモンゴル・新疆・チベットの民族運動の分離傾向が国際政治における圧力カードとして使われることを警戒している。ただし、一言で民族問題といっても事情は様々だ。反右派闘争、大躍進政策、そして文化大革命など中央での政治路線の変化に各民族は常に翻弄されてきたし、中央主導の政治・経済統合によって引き起こされた文化上・生活習慣上の摩擦は現在でも大きな社会問題となっている。宗教上の問題、新疆での反核の訴え、政治的権利・人権の問題など、様々な不満がくすぶっている。こうした不満から生じる異議申し立てを、それがたとえ独立運動ではなくても、“民族分離主義”という一律のレッテル貼りをして政治弾圧を加えている側面がある。

 香港が一国二制度となり、さらに台湾、チベット、新疆の事情を踏まえ、天安門事件で亡命した政治学者・厳家其が示した、外交と軍事だけは中央が握り後は広範な自治を認めるというゆるやかな国家連合的連邦制のアイデアが紹介されている。現段階では極めて難しいにしても興味深い。

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