「ぐるりのこと。」
「ぐるりのこと。」
何となく一緒になって子供ができ、結婚したカナオ(リリー・フランキー)と翔子(木村多江)の二人。頼りなさそうで収入の不安定なカナオに対し、翔子の家族が向ける視線は厳しい。美大の先輩の口利きでカナオは法廷画家の仕事を始める。何とか生活も軌道に乗りそうな矢先、生まれた子供がすぐに死んでしまった。生真面目な性格の翔子は自分を責め、精神を病んでしまう。
木村多江のやつれた表情がどこかなまめかしくも美しい。リリー・フランキーは役作りというよりも、下ネタがさり気なく出てくるところも含めて本人そのままの自然な感じ。カナオには、何とかしなきゃ!というようなこわばった力みかえりはない。あきらめというのではなく、ただそっと見守り、受け入れていくしかないし、それが自分の役目だと達観しているかのようだ。そうしたやさしい脱力感がリリー・フランキーの飄々とした雰囲気にうまくかみ合っている。なかなか良いと思う。
法廷画家という仕事の場面で、1990年代を騒がせた様々な事件が出てくる。裁判シーンそのものにはあまり意味はない。いわば時代を刻む時計とでも言おうか、それだけ二人の過ごしてきた時間の厚みを感じさせてくれる。
橋口監督自身の鬱病体験が反映されているらしい。なお、梨木香歩のエッセー集『ぐるりのこと』とは関係ない。
【データ】
監督・脚本:橋口亮輔
出演:木村多江、リリー・フランキー、寺島進、倍賞美津子、柄本明、寺田農、他
2008年/140分
(2008年7月6日、渋谷、シネマライズにて)
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